2021.9.1
ゾンビ化する大木と殺人キノコ。富士の麓で静かに広がる異常事態とは
葉が生えそろったのに、急速に立ち枯れしてしまった大木に一体何が起こったのか
その異変に気づいたのは、今年の夏が始まる頃でした。
山梨県・山中湖村にある我が山の家のお向かいには、一棟貸しの瀟洒なペンションが建っています。
建物の横には、立派な枝ぶりのシンボルツリー。
恐らくこの周辺に多く生えているクヌギかコナラなのでしょう。
道路を挟んで我が家の庭にも面したところに生えている大木なので、今年も長い冬が終わって若葉を芽吹き、新緑から徐々に緑を濃くする季節の変化を楽しんでいました。
ところが、梅雨が明けた頃のことです。
たわわに蓄えたその木の葉が、全体的にくったりとしおれてきていることに気づきました。
葉の色も、周囲の樹木の生気に満ちたつややかな緑とは明らかに違い、ひどくくすんでいます。
最初は「あれ、変だな」と少し気にかかる程度でした。
しかし、日をあけて山の家を訪れて見るたび、木の葉の変化は著しく、やがてほとんど枯れ果ててしまいました。
どうやらその木は、わずか1ヶ月あまりの間に枯死してしまったようなのです。

幹の太さから見て、樹齢数十年は経過した木だったはず。
長年にわたって風雪に耐えてきた立派な大木が、なぜこれほどあっという間に死んでしまったのか。
オーナーさんに尋ねると、原因は“ナラ枯れ”という病気でした。この周辺では、ナラ枯れが急増しているのだそうです。
なんとなく耳にしたことがあったナラ枯れという言葉を、そのとき初めてはっきり意識しました。
ナラ枯れは一昨年くらいから多く見られるようになり、県や村でも対策に追われているようです。
山の家には束の間の休息、息抜きのために来るデュアルライフ民ですので、良いところ、楽しい側面ばかりを見てしまう傾向にあることは自覚しています。
村が直面しているこんな喫緊の問題にも気付いていなかったことは、率直に反省しなければなりません。
ナラ枯れを見かけたら、村役場への通報が求められています。早速点検したところ、今のところ我が家の庭木はいずれもまだ大丈夫でしたが、いつナラ枯れ被害の当事者になるかもわかりません。
急に心配になってきた僕は、家の周辺も調べてみることにしました。
すると、感染拡大は一目瞭然でした。
隣の空き地に生えている木は2本。同じ通り沿いにある二軒先の家の庭木も、そのお隣の庭木もそれぞれ1本ずつ枯死しています。
ほかにも至るところに、ナラ枯れ樹木があることがわかりました。
人間の目というものは、見ようと思っているものしか見ていないことを痛感しました。
僕の脳の照準が合ったとたん、すぐ周辺にまで迫っている危機をはっきり自覚できたのです。
