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ゾンビ化する大木と殺人キノコ。富士の麓で静かに広がる異常事態とは

東京生まれ、東京育ちの“シティボーイおじさん”が、山中湖畔に中古の一軒家“山の家”を購入! 妻、娘、犬とともに東京←→山梨を行き来する2拠点生活=「デュアルライフ」をはじめました。 音楽や読書など山の家での趣味活動から、仕事やお金のやりくりといった現実的な話題まで、 著者が実体験したデュアルライフのリアルを綴ります。 別荘暮らしが優雅な富裕層の特権だったのはもう過去の話。 社会環境や生活スタイルが大きく見直されている今、必読のライフエッセイです。 前回は、自家用カヤックで湖上散歩を楽しんだ様子をお届けしました。 今回は、山の家の周辺で発生している木々の“異変”についてのお話です。

葉が生えそろったのに、急速に立ち枯れしてしまった大木に一体何が起こったのか

その異変に気づいたのは、今年の夏が始まる頃でした。

山梨県・山中湖村にある我が山の家のお向かいには、一棟貸しの瀟洒しょうしゃなペンションが建っています。
建物の横には、立派な枝ぶりのシンボルツリー。
恐らくこの周辺に多く生えているクヌギかコナラなのでしょう。
道路を挟んで我が家の庭にも面したところに生えている大木なので、今年も長い冬が終わって若葉を芽吹き、新緑から徐々に緑を濃くする季節の変化を楽しんでいました。

ところが、梅雨が明けた頃のことです。
たわわに蓄えたその木の葉が、全体的にくったりとしおれてきていることに気づきました。
葉の色も、周囲の樹木の生気に満ちたつややかな緑とは明らかに違い、ひどくくすんでいます。
最初は「あれ、変だな」と少し気にかかる程度でした。
しかし、日をあけて山の家を訪れて見るたび、木の葉の変化は著しく、やがてほとんど枯れ果ててしまいました。
どうやらその木は、わずか1ヶ月あまりの間に枯死してしまったようなのです。

枯死してしまったペンションの木。一部の葉はまだ緑だがしおれている
枯死してしまったペンションの木。一部の葉はまだ緑だがしおれている

幹の太さから見て、樹齢数十年は経過した木だったはず。
長年にわたって風雪に耐えてきた立派な大木が、なぜこれほどあっという間に死んでしまったのか。
オーナーさんに尋ねると、原因は“ナラ枯れ”という病気でした。この周辺では、ナラ枯れが急増しているのだそうです。
なんとなく耳にしたことがあったナラ枯れという言葉を、そのとき初めてはっきり意識しました。

ナラ枯れは一昨年くらいから多く見られるようになり、県や村でも対策に追われているようです。
山の家には束の間の休息、息抜きのために来るデュアルライフ民ですので、良いところ、楽しい側面ばかりを見てしまう傾向にあることは自覚しています。
村が直面しているこんな喫緊の問題にも気付いていなかったことは、率直に反省しなければなりません。
ナラ枯れを見かけたら、村役場への通報が求められています。早速点検したところ、今のところ我が家の庭木はいずれもまだ大丈夫でしたが、いつナラ枯れ被害の当事者になるかもわかりません。
急に心配になってきた僕は、家の周辺も調べてみることにしました。

すると、感染拡大は一目瞭然でした。
隣の空き地に生えている木は2本。同じ通り沿いにある二軒先の家の庭木も、そのお隣の庭木もそれぞれ1本ずつ枯死しています。
ほかにも至るところに、ナラ枯れ樹木があることがわかりました。
人間の目というものは、見ようと思っているものしか見ていないことを痛感しました。
僕の脳の照準が合ったとたん、すぐ周辺にまで迫っている危機をはっきり自覚できたのです。

頭の照準が合うと、ナラ枯れの木が次々に見つかる
頭の照準が合うと、ナラ枯れの木が次々に見つかる
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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『糖質制限の真実』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『STUSSY2017 FALL/HOLIDAY COLLECTION』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

ツイッター@satoseijiro

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