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66歳の現役パンクロッカー、the原爆オナニーズ・TAYLOWが語る「肉体と精神の変化」。そしてバンドの終わり方

“あ・うんの呼吸”のバンドが、終わる日は来るのか

「誰かの調子がおかしかったら、誰かが必ずカバーするという4人の合体感を会得している」。(撮影/木村琢也)
「誰かの調子がおかしかったら、誰かが必ずカバーするという4人の合体感を会得している」。(撮影/木村琢也)

 しかし、2022年11月、まさしく同年代であり、バンドとしてのスタンスも近しく、対バンも数多かった盟友とも言えるハードコアパンクバンド・ガーゼが、41年もの活動歴に終止符を打った。the原爆オナニーズと同じく、メンバーそれぞれが音楽以外の仕事を持ち、生活基盤を保ちつつ活動を継続してきたガーゼ。まったく手を抜かない全力のライブで、ファンを魅了してきたバンドだった。
 TAYLOWはそんなガーゼの解散に、自分のバンドの境遇を重ね合わせることはないのだろうか。

「ガーゼの事情については時系列でずっと話を聞いていて、解散決定もいち早く伝えてもらいました。それを聞いたときは、うちもいつかはそうなるのかなって考えなかったわけではないです。ただ今のところ、そこまで深く考えることもないかなと。4人揃ってリハを始めると、『OK!』って思えますから。
 今日(2024年5月25日、東京・下北沢CLUB Queでライブが行われる日。本インタビューはリハーサルと本番の間に敢行した)のリハのとき、冗談っぽく『(午後)9時過ぎると調子悪くなるから。声が出なくなるかもしれませんよ』って言ったけど、今年の2月にコロナにかかったあと、気管支がイマイチの時があって。あんなふうに言っとけば、周りの人は分かってくれるから。『もう年寄りだもんな』とか(笑)。
 だけどうちのバンドのメンバーは、誰かの調子がおかしいときは、ぱっとカバーしてくれる。僕の声が出てないって気づくと、すぐ何とかしようとしてくれるんです。すごいですよ、そういう“あ・うんの呼吸”は」

 取材後に見たライブ本番でのTAYLOWは、不安を抱えているとは到底思えない、完璧で激しいステージングだった。“あ・うんの呼吸”によってメンバーが補った結果だったのかもしれないが、少なくてもフロアにいるファンには、そんなことはまったく感じさせなかった。

「誰かの調子がおかしかったら、誰かが必ずカバーするという4人の合体感。考えてないのよそんなこと、頭の中では絶対に。ただ、会得してる感じ。
 座禅を組んで息整えて、修行を積んだことのように、頭よりも体で分かってるみたいなところはある。
 そんな感じのバンドなのかなって。
 シノブ(ギターのSHINOBU)が映画(2020年に公開されたthe原爆オナニーズを追ったドキュメンタリー映画『JUST ANOTHER』)の中で言ってたみたいに、バンドはこのままずっと続けるんじゃないのかなって思ってる」

TAYLOWにとっての“あるべき姿のパンク”

――結成42年のthe原爆オナニーズに今さらながらあえて聞きますが、バンド全体として今はどんな目的、目標を持っていますか?

「より“さらけ出すこと”じゃないかな」 

――“さらけ出す”ですか。と言うと……?

「みんな昔と変わらんと言いながら、変わることもあるじゃない。横山(1981年結成のハードコアパンクバンド・G.I.S.M.のボーカル・横山SAKEVI。2023年8月逝去)も亡くなったし。横山とは、仲よかったよ。多分、最初の頃のハードコアをやってた人たちは、みんな仲がいい。それぞれの思いがあるから『仲いいよ』って言うと、全員『そんなことねえよ!』って言うだろうけど(笑)。
 ゼロ(1989年結成のノイズロックバンド、コーパス・グラインダーズのボーカル/ギターZERO)は、モルグの頃から横山を知っているから、いつも『あいつはさ』って話してた。だけど、そのゼロも亡くなっちゃった(2022年4月逝去)。奇形児のヤス(1982年結成のパンクバンド奇形児のボーカルYASU。2021年12月逝去)も、ヒロシマ(G.I.S.M.の元ドラマー。2022年1月逝去)も。
 そういうことを考えると、今から自分をどうやってさらけ出してライブやっていけるかっていうのが楽しみなわけ」

――楽しみなんですね。

「だって、できなくなっちゃった人がいるわけじゃん。でも、俺まだできるじゃん。
 チバ君(THEE MICHELLE GUN ELEPHANT、ROSSO、The Birthdayなどのボーカリスト、チバユウスケ。2023年11月逝去)にしても、絶対にやりたいことあったのにできなくなっちゃった。俺はまだできるじゃん。
 今日のステージの上で突然、心臓止まっちゃったら終わりだけど。そうなる前に、多分みんなが助けてくれるだろうし。
 the原爆オナニーズの終わりは、できなくなったとき。さらけ出しながらやれるところまで行く。シノブが言ってたとおり、“できる限りは続く”っていうのが一番正しい見方かな。できなくなるというのがどんな状態なのかは、それは分かんない。そのときにならないと」

――そのモチベーションは、どこから来るんですか?

「自分が音を聞いて暴れたいからやってる。それだけだと思う。バンドのメンバーにも、“僕が暴れられる音を出してね”みたいな。
 それは20代の頃からまったく変わらない。僕の考える“あるべき姿のパンク”に対して、みんな協力してくれってことは」

――あるべき姿のパンクとは、どういうことなのでしょうか。

「パンクバンドが他の音楽バンドと違うところは、何かを伝えるために音楽そのものというより、さらけ出した自分で表現するっていうこと。
 自分が楽しいと思ってステージの上で“さらけ出してる”のを見て、みんなが同じように楽しかったって思って帰ってもらえれば正解。『やったね』って思えるんです」

――TAYLOWさんにとって、そんなふうにさらけ出すことができれば、ライブは100点なんですね。

「だけど僕は100点と思えたライブは、一回もないんです。
 90点は突破できるんです。でも、もう60歳を超えた人の“100点”だから、思いがあまりにも高くて。
 でも、いつかそうなりたいから頑張れる。“頑張る”っていうのはおかしいかな。“やり続ける”かな」

 取材も終わりに近づき、雑談まじりで今もっとも気になるバンドは何かと尋ねると、IDLESだという答えが返ってきた。

「去年フジロックで観て、すごくいいライブだった。コミュニティ感のあるライブではなく、いい意味で“バンドとお客”という関係性ができていて、すごく面白かったんです。イギリスのバンドはイギリスで見るのが一番なんで、今度、アイドルズを観るためにイギリスへ行こうと計画中です」

 2009年にイギリス・ブリストルで結成され2017年にアルバムデビューした、若きポストパンクバンド・IDLESのことを熱く語るTAYLOW。
 パンクをより深く知り、どこまでも究めたいというその心持ちも、まだまだ衰え知らずのようであった。

2回のアンコール含め、この日のライブも最善を尽くしたTAYLOW。(撮影/木村琢也)
2回のアンコール含め、この日のライブも最善を尽くしたTAYLOW。(撮影/木村琢也)

文中敬称略。この連載は不定期更新です。次回のゲストもお楽しみに!

その活動はドキュメンタリー映画『JUST ANOTHER』として公開!

【プロフィール】
タイロウ/1958年3月、愛知県豊田市生まれ。1982年、名古屋でザ・スター・クラブに在籍していたEDDIE(ベース)と中心に結成したthe原爆オナニーズのボーカル。1983年、ドラマーTATSUYA(中村達也)とギタリスト良次雄が脱退、直後にギタリストSHIGEKIとドラマーMAKOTOが加入。
1984年、自らのレーベル“ティン・ドラム”より『JUST ANOTHER』『NOT ANOTHER』の2枚のEPをリリース。以後、数度のメンバーチェンジを経て、
現在は、1986年に加入したJOHNNY(ドラムス)、2001年に加入したSHINOBU(ギター)の4名のメンバーで活動している。
2020年、キャリア初のドキュメンタリー映画『JUST ANOTHER』公開。
バンド結成42年目となるいまも精力的にライブ活動を続けている。
公式X(旧ツイッター):@genbaku_onanies
公式HP:the原爆オナニーズ公式HP

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『オフィシャル・サブカル・ハンドブック』『日本懐かしスニーカー大全』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

ツイッター@satoseijiro

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