よみタイ

爪切男「クラスメイトの女子、全員好きでした」

幼なじみの罪とヤマボウシは蜜の味

 『シルバニアファミリー』とは、一九八十年代後半にエポック社から発売された、ウサギ、タヌキ、キツネ、クマ、リス、といった森の動物たちをモチーフとした人形のことである。人形だけではなく動物たちが暮らすドールハウスや家具なども魅力の一つであり、女の子を中心にリカちゃん人形と双璧をなす人気おもちゃであった。
 どうやらナッちゃんは、金品には手を出さず、友達の家に遊びに行っては、家族一名をさらってくるシルバニアファミリー専門の泥棒だったようだ。名づけてシルバニアハンター。泥棒には違いないが、その言葉の響きは何とも可愛らしい。

「男の子のキン消しって言えば、ヒロ君だって私の気持ちが分かるはずだよ? あれを性格悪い金持ちに見せびらかされたら嫌な気分になるでしょ?」
「なるだろうね。でも俺は盗まないよ。ライターでそいつのキン消しを全部溶かしてやるよ」
「……」
「盗むのは卑怯だからさ、俺は戦うよ。だからキン消しを燃やす、そして溶かす」
「シルバニアを自慢されたら」
「シルバニアを燃やす、ドールハウスも燃やす」
「……」
「ナッちゃん、火は無敵なんだよ」
「ヒロ君のほうが頭おかしいよね」
「コソ泥が何言ってんだ」
「……」
「怖いとは思うけどさ、ちゃんと返して謝ろうよ」
「……わかった。怒ってくれてありがとね」
「人形一体だけ盗むってことはさ、ウサギさん一家とか、クマさん一家みたいに、同じ動物で家族になってないんだね」
「そう、クマさんがお父さん、ウサギさんがお母さん、子供はリスなの」
「へぇ、それはそっちの方が家族の絆が強そうでいいね」
「え、種類が違うんだよ」
「種類とか血の繋がりとかよりも大事なもんがあるよ。家族ってきっと」
「変なの。でも怒ってくれてありがとね。ヒロ君」

 照れ隠しに、私はヤマボウシの実をもう一度ナッちゃんの顔に投げつけた。
 今度はちゃんと投げ返してきた。安心した。

1 2 3 4 5

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Twitterアカウント
  • よみタイ公式Facebookアカウント

関連記事

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

爪切男

つめ・きりお●作家。東京都中野区在住。2018年1月、『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。現在、週刊SPA!にて勤労エッセイ『働きアリに花束を』を連載中。2019年11月末に扶桑社より文庫版『死にたい夜にかぎって』発売予定。また、中央公論新社BOCにて好評を博した『男じゃない女じゃない仏じゃない』も来年書籍化予定。トークショー、物言わぬ変人役でのドラマ出演、サウナコンテストの審査員など、作家以外の活動も多種にわたって迷走中。

週間ランキング 今読まれているホットな記事