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学校のマドンナは水飲み場の妖怪

小学校から大学まで――。 さまざまなクラスで、それぞれの出会いがあった。 教室で、体育館で、廊下で、校庭で……。 時が経っても鮮明に思い出す彼女たちの面影。 ロングセラー『死にたい夜にかぎって』の著者が贈るスクールエッセイ。 前回は、しそと塩昆布の味に隠された恋の話でした。 4話目の今回は、男女みんなから人気があった学校のマドンナのお話です。

『トイレの花子さん』とは、学校にまつわる有名な都市伝説の一つである。誰もいないはずの学校のトイレに向かって「花子さんいらっしゃいますか?」と問いかけると、ある個室トイレから「はい」と返事がする。その声に誘われるまま扉を開けると、おかっぱ頭の花子さんにトイレの中に引きずりこまれてしまうという恐ろしい話だ。

 私の通う小学校には『トイレの花子さん』は存在しなかったが、『水飲み場の妖怪』と呼ばれた女の子がいた。

 妖怪の名ははやし 香澄かすみさん。私が小学校六年生の時のクラスメイトである。

 デビュー当時の広末涼子ぐらいショートカットがよく似合う女の子だった林さん。竹を割ったような真っすぐで明るい性格をしており、勉強もスポーツも人並み以上にできる優等生だ。芸能人で言えば渡辺満里奈に似た愛らしい顔をしており、160cmを超える身長と、バレリーナのようにスラリと伸びた細く長い手足は、ともすれば中学生、下手したら高校生に間違われても仕方のないぐらい大人びた女の子だった。
 そんな林さんは、男子からすれば愛しのマドンナ、女子にしてみれば頼れる姉御という感じで、誰しもが認める学校の人気者であった。

 だがその一方で、彼女は『水飲み場の妖怪』として恐れられていたのである。

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新刊紹介

爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
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公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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