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爪切男「クラスメイトの女子、全員好きでした」
小学校から大学まで――
さまざまなクラスで、それぞれの出会いがあった。
教室で、体育館で、廊下で、校庭で……。
時が経っても鮮明に思い出す彼女たちの面影。
ロングセラー『死にたい夜にかぎって』の著者が贈るスクールエッセイ。

前回は、学校のマドンナの水飲み場での特別なクセについてのお話でした。
5話目の今回は、となりの小学校の囲碁が得意な可愛い女子とのストーリーです。

囲碁のプリンセスが白石で作ったハートマーク

「伝統」と言ってしまうのは少し大袈裟だが、我が家には先祖代々受け継がれているひとつの趣味がある。
 それは「囲碁」だ。
 
 中国が発祥とされる囲碁は、古くから世界中で親しまれている対戦型ボードゲームである。縦に19、横に19の升目が刻まれた四角い碁盤の上に、一人が白、もう一人が黒の碁石を交互に打ち合い、自分の陣地を多く手に入れた方の勝ちとなる。

 明治時代、たいそうな軍人だったらしい私の曾祖父は、先の展開を見通す想像力や、ここぞという時の集中力を養うのに囲碁が役立つと考え、「囲碁を通じて己を鍛えるべし」というなんとも迷惑な家訓を残した。
 その言いつけを律儀に守り、祖父、祖母、親父と、私の家族はみな囲碁の嗜みがあった。そして小学校三年生になる頃には、半ば強制的に、私も祖父から囲碁を教えてもらうことになった。
 
 ところが、私はすぐに囲碁に飽きてしまう。理由は単純明快。囲碁より将棋が好きだったのだ。
 碁石を並べていくのは退屈で仕方ない。飛車、角、桂馬など、それぞれに特性を持った駒を使い分けるのが面白いし、相手の駒と向き合って戦う将棋は、いかにも「決戦」という感じでワクワクした。囲碁を悪く言いたいのではなく、将棋のゲーム性の方が私の性格に合っていたのだ。

 さらに残酷なことに、私以外の家族は、囲碁の県大会で優秀な成績を収めるほどの腕前を持っているのに、私はといえば、ルールを覚えるのが精一杯で試合は連戦連敗という有様だった。やはりスポーツも勉強も良い成績が取れないとつまらないというのは本当である。
 
 なんとか私に囲碁の素晴らしさを知って欲しいと願う祖父は、毎週日曜日の昼、私を隣町の碁会所に連れて行くようになった。もちろん私は乗り気じゃなかったが、付き添うだけでお小遣いをもらえるので、簡単な「仕事」をしている感覚で同行した。

 碁会所とは、地域の囲碁好きが集まる場所で、最初に場所代を払えば、あとは、そこにいる人たちで自由に対局を楽しめるというシステムだった。昭和六十三年という時代背景もあったのか、場所代は大人が500円で子供が200円と格安だった記憶がある。
 客の年齢層は、暇を持て余している高齢者の皆さんと中年層が大半を占めていた。性別は圧倒的に男性の方が多い。現在のように禁煙、分煙ではない碁会所の中には、立ち込めた煙草のけむりで灰色のカーテンがたなびいていた。

 最初に碁会所に足を運んだ日、「ほれ、あそこ見てみろ」と祖父の指さす方を見ると、そこには、ぬり絵で遊んでいる可愛い女の子がいた。

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爪切男

つめ・きりお●作家。東京都中野区在住。2018年1月、『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。現在、週刊SPA!にて勤労エッセイ『働きアリに花束を』を連載中。2019年11月末に扶桑社より文庫版『死にたい夜にかぎって』発売予定。また、中央公論新社BOCにて好評を博した『男じゃない女じゃない仏じゃない』も来年書籍化予定。トークショー、物言わぬ変人役でのドラマ出演、サウナコンテストの審査員など、作家以外の活動も多種にわたって迷走中。

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