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爪切男「クラスメイトの女子、全員好きでした」

学校のマドンナは水飲み場の妖怪

 そんな折、一人の変態が現れた。クラスで一番のお調子者である岩崎君である。彼は、林さんが水を飲んだ後のウォータークーラーに近づき、先ほどまで彼女が口をつけていた噴出口に「チュッ」と軽くキスをしやがったのだ。

「林と間接キスしちゃったもんね~」と小躍りして喜ぶ岩崎君。「間接キスと引き換えに人として大切なものを失ったぞ」と言ってやりたかったが、もう言葉を交わすのも嫌だったので、私を含めクラスメイトたちは誰も岩崎君を止めようとしなかった。

 ところが、怒られないのを良いことに、岩崎君の行動は徐々にエスカレートしていく。最初こそ軽めのフレンチキスだったものが、徐々にディープキス、果てはイジリー岡田のように舌をベロベロと動かしながら噴出口を舐め回すという鬼畜の所業であった。

 これはさすがに見過ごせないと、何人かが岩崎君に「気持ち悪い」「やめろ」と注意をしたのだが、彼は聞く耳を持たなかった。担任の先生に相談しようとも思ったのだが、このことがきっかけで、全体集会で生徒全員に注意をするなんてことになったら、林さんを余計に傷つけてしまいそうで怖かった。

 いろいろと知恵を絞ってみたが、一番の解決方法は、林さんがあの下品な飲み方を自主的にやめてくれればいいのである。私は林さんと仲の良い女子生徒たちに、彼女にそれとなく注意してくれないか頼んでみた。ところが、どの子も「そんなこと言ったら傷つけちゃいそうで怖いし……」と首を縦に振らない。

 ある女子には「そんなに林さんのことが心配なら自分で言えば?」と言われたのだが、私にはそれができない理由があった。

 単純に、あまり話をしたことがないのもあるが、一番の理由は六月のお誕生日会での出来事だった。クラスの毎月のイベントで、その月に誕生日を迎える友達に対して、それぞれが好きなイラストを描いた誕生日カードをプレゼントするというものだ。六月のお誕生日会で、六月五日生まれの私に林さんがくれた誕生日カードは、なぜかモアイ像が十体も描かれている不気味なものだった。ああ、きっと林さんは私のことが嫌いなんだな。そうじゃなきゃ、誕生日にモアイ像の絵なんて描いて贈らないだろう。しかも十体も。そのモアイ事件の影響で、私は林さんとなんとなく距離を置いていたのだ。

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爪切男

つめ・きりお●作家。東京都中野区在住。2018年1月、『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。現在、週刊SPA!にて勤労エッセイ『働きアリに花束を』を連載中。2019年11月末に扶桑社より文庫版『死にたい夜にかぎって』発売予定。また、中央公論新社BOCにて好評を博した『男じゃない女じゃない仏じゃない』も来年書籍化予定。トークショー、物言わぬ変人役でのドラマ出演、サウナコンテストの審査員など、作家以外の活動も多種にわたって迷走中。

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