2019.11.11
この世で一番「赤」が似合う女の子
時は流れ成人式の日。慣れないスーツに身を包み、記念式典が行われる町民体育館へと向かう。会場で、久しぶりに再会した旧友と昔話に花を咲かせるうちに、お互いに全然大人になっていないことに驚く。大人になるってなんだろう。体の大きさだけは一人前だが、精神年齢は夏休みの宿題をずっとやり続けている小学生のままで止まっている。
他に顔見知りがいないか、会場内を見回すと、ひときわ赤を強調した派手な振袖の女の子が目に留まった。
松浦さんだ。
やっと会えた。
声をかけようと駆け出しそうになった足をすぐに止める。彼女は両手で赤ちゃんを大事そうに抱きかかえていた。
そうか、結婚したんだな。よかった。吃音はもうよくなったのかな。それは余計なお世話か。しかし、相変わらず赤い服がよく似合っている。でも、口紅はちょっと赤く塗り過ぎかな。無理やり文句をつけてみる。なんだか松浦さんだけ大人になってしまったみたいで、無性にさみしくなった。
心の中で「あの時は泣かせてごめんなさい」と謝ってから、彼女に見つからないように会場の隅にこっそりと移動する。無料で配られている缶ビールをもらって一気に飲み干す。苦い。これだからビールは嫌いだ。俺はカルーアミルクみたいな甘い酒が好きなんだ。もう一度振り返って、松浦さんの横顔を見る。本当に赤がよく似合う女だ。
元号が「平成」から「令和」に変わった二〇一九年、私は四十歳になった。大人になったかどうかは分からないが、確実におっさんにはなった。
これまでの人生を振り返ってみても、松浦さんより赤が似合う女には出会ったことがない。これは誇張じゃなくて本当だ。そして、それはとても幸せなことだと思う。
そう、今ならはっきりと分かる。
松浦千沙さん、私はあなたのことがきっと好きでした。
(次回に続く)