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佐藤誠二朗「グリズリー世代のバック・トゥ・ザ・ストリート」
グリズリー……それは北アメリカ北部に生息する大きな灰色のヒグマの名であると同時に、白髪交じりの頭を形容するスラング。頭にちらほら白いものが目立ち始める40~50代を、アラフォー、アラフィフといってしまえば簡単だけど、いくつになってもオシャレと音楽が大好きで遊び心を忘れない彼らを「グリズリー世代」と名付けよう――
そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。

じいちゃんのアーミースプーンから、戦争と人の生き方について考える

我が家には、「U.S.」の刻印が入った一本のスプーンがある。
ステンレス製のアメリカ軍用食器である。

検索してみるとまったく同じ仕様のものが、米軍払い下げ品として販売されている。
新品もあればヴィンテージとされているものもあるが、何十年もまったくデザインが変わっていないので、両者は見分けがつきにくい。

サープラスのヴィンテージグッズはよく偽物が出回る。ベトナム戦争で“米軍兵士が使っていた実物”として販売されているZIPPOなんか、ほとんどが怪しいと聞く。
でも我が家のアーミースプーンは、正真正銘のヴィンテージ。第二次世界大戦当時に使われていたものだ。

なぜならこれは、フィリピンに出征し終戦とともに捕虜となった祖父が、その二年間の抑留生活で使用していたものだからだ。
祖父はもうとっくに天国に行ったが、家でもずっとこのスプーンを使っていた。
そして最近、妻が僕の実家の引き出しで見つけ、「これ、かっこいいね。もらっていい?」と持ち帰ってきたのだ。

何も知らなかった妻にスプーンのバックグラウンドを話したら驚いていたけど、いま普通にサラダの取り分け用にしている。
あまりにも普通に使っているのでほとんど忘れているが、8月に入ると、「あ、そうだった」と思い出すのだ。

“じいちゃんのスプーン”は、次の世代にも引き継いでもらう予定

戦地に駆り出された祖父母の代はもう誰もいない。
子供時代に内地で戦争を実体験している父母の代も、だんだん少なくなってきた。
僕自身は小さい頃、池袋の路上で白い装束の傷痍軍人を見たりして、戦争の残り香をかすかに嗅いだことがある世代。

そして僕の子供はどうだろう?
いまの子にとって、かつてアメリカ人と日本人が殺し合いをしていたなんて、SFみたいな話に思えて当然だ。
だから、このスプーンを大事にしている。

いずれ娘には、“ひいおじいちゃんが、米軍からもらったスプーン”といういわくともに、嫁入り道具のひとつとして持っていってもらおうと思っている。

生きて虜囚の辱めを受けず、などと勇ましいことを考えず、激戦地で最後まで生き延びて家族のもとに帰ってきたじいちゃんのスプーンから、戦争や人の生き方について、1ミリでも何か感じてもらえたらいいなと思うのだ。

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『糖質制限の真実』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『STUSSY2017 FALL/HOLIDAY COLLECTION』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

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