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佐藤誠二朗「グリズリー世代のバック・トゥ・ザ・ストリート」
グリズリー……それは北アメリカ北部に生息する大きな灰色のヒグマの名であると同時に、白髪交じりの頭を形容するスラング。頭にちらほら白いものが目立ち始める40~50代を、アラフォー、アラフィフといってしまえば簡単だけど、いくつになってもオシャレと音楽が大好きで遊び心を忘れない彼らを「グリズリー世代」と名付けよう――
そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。

人の腕時計を嗤うな! 機械式からチプカシまで、それぞれに魅力がある

腕時計は大人の男がハマりやすいジャンルのひとつなので、高価な機械式をどんどんどんどん買う人もいる。
僕はオメガのスピードマスターとパネライのサブマーシブルという機械式腕時計を持っている。いずれも若いころ手に入れて多少無理してつけていたが、もう高い腕時計はこれだけでいいかなと思っている。定期的にメンテナンスしながら、一生大切に使うつもりだ(機械式時計はオーバーホールするだけでも結構な値段だし)。

でも腕時計は好きなので、ほかにもたくさん持っている。
カシオのG-SHOCKやタイメックス、スウォッチ、雑誌の付録、ヤフオクで落としたアンティーク品といった、カジュアルな安時計ばかりだ。

ノームコアと連動して2016年くらいにピークとなったチープカシオの流行は痛快だった。
軽いし機能的だし丈夫だしシンプルで可愛いし、チープカシオは実に愛すべき時計。躊躇なく買える値段なので、僕は結局4本買った。
流行が収束しつつある現在も、一番頻繁につけている腕時計はF-91Wかもしれない。“テロリストウォッチ”との異名を持つ、チープカシオの代表的モデルである。

テロリストウォッチと呼ばれるのは、この時計が時限爆弾の部品となることが多いから。F-91Wを使った爆弾製造法を記載した、テロリストのマニュアルもあるとかないとか。
確かに、腕にF-91Wがはめているビンラディンの有名な写真がある。その一方、若かりし日のオバマ大統領の腕にもF-91Wが確認できる。
ということはオバマもテロ組織の一員だった? というわけではなく、単純にF-91Wはおそらく世界で一番大量に販売された腕時計だからだ。

隠されたストーリー&ヒストリーを知れば、安物腕時計だって大好きになる

その次に僕が頻繁に使うのは、昨年買ったスウォッチ、XX-RATEDだ。
もともと80年代に発売されたこのモデル、文字盤に大きく書かれた「X」の文字が、禁欲的な姿勢を示すために手の甲に×印を記す80年代USハードコアのサブジャンル、ストレートエッジを彷彿とさせる。そのため、ユース・オブ・トゥデイやアンスラックスなどのバンドメンバーが着用し、一部のロック好きの間で人気となったモデルなのだ。
製造終了となっていたのだが、昨年まさかの復刻。僕はつい熱くなり、発売日にスウォッチショップへ飛んだ。

それにしても、高価な腕時計をステイタスシンボルにして、自慢気に見せびらかす感性だけは理解できない。
だって機能的には、500万円の機械式よりチープカシオの方が上だからね、はっきり言って。ジュエリーと同じ装飾品なのだから、機能性にいちゃもんをつけてもしょうがないことはわかっているけど。

年相応ではないカジュアルな腕時計をつけている人も、きっとそれなりの理由があって愛用しているのだ。高価な機械式時計だけが偉いわけじゃない。
投機的な側面もあわせて考えれば、そりゃあウナるほど金があれば買いたくなるのはわかるけど。
金さえあればね。
ああ、金が欲しい……。

じゃなくて!
とにかく人の腕時計を嗤ってはいけない。それは醜いことです。

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『糖質制限の真実』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『STUSSY2017 FALL/HOLIDAY COLLECTION』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

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