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佐藤誠二朗「グリズリー世代のバック・トゥ・ザ・ストリート」
グリズリー……それは北アメリカ北部に生息する大きな灰色のヒグマの名であると同時に、白髪交じりの頭を形容するスラング。頭にちらほら白いものが目立ち始める40~50代を、アラフォー、アラフィフといってしまえば簡単だけど、いくつになってもオシャレと音楽が大好きで遊び心を忘れない彼らを「グリズリー世代」と名付けよう――
そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。

タカラトミーPixtossは、愛すべき2020年式“本格”トイカメラ

2000年代初頭から中頃にかけて、トイカメラの一大ブームがあった。
ロシアのフィルムカメラ“LOMO(ロモ)LC-A”が火をつけたあと、同じロモ社のもっと古いカメラ“LOMO SMENA 8M”や、中国製の中判カメラ“HOLGA(ホルガ)”などが次々に発掘され、人気を博していく。

トイカメラと言っても、それらのカメラは最初から“おもちゃ”として生まれたわけではない。
経済が滞っていた1970〜80年代の旧共産圏の国で設計された真面目なカメラだったのだが、技術と資本の乏しさから全体的に安っぽく、スペックもめちゃくちゃ。
現像が上がる瞬間までどんな写りをしているのか予想できず、びっくり箱のような面白さがあるため、そう呼ばれるようになったのだ。

この中では“LOMO LC-A”だけは金属ボディでやや高級感があるけど、その他のものはプラスティック製の軽いボディで、いかにもおもちゃっぽい風情。
その“LOMO LC-A”にしても、実は日本製の“COSINA(コシナ)CX-2”というカメラの粗悪コピーなのである。

僕は当時のトイカメラブームに、思い切り乗っかったうちの一人。
上記のカメラはすべて持っていて、ダメダメながら何とも味のある写りに興奮しつつ、撮りまくっていた。
しかし、いくつか手元に残っているそれらのトイカメラ、最近はほとんど使っていない。
世間の動きを見ても、トイカメラブームは一気に盛り上がったあと、数年間でしぼんでいく。
それはひとえに、スマホの普及が要因だ。

アプリを使えばトイカメラ風の味アリ写真が容易に撮れるのだから、わざわざ面倒な旧スペックのフィルムカメラを使う必要はなくなってしまったのだ。
前にこのコラムで、トミーが2005年に発売し、カルト的人気となったトイデジカメ“Xiaostyle(シャオスタイル)TDG-501”を紹介した。
そのあたりがトイカメラブームの最終コーナーだった気がする。

でも、その後も傍流カメラの世界は発展を遂げ、スマホや普通のデジカメではできない機能性を持たせたカメラが続々と登場する。
それらはもはや“トイ”とは呼べないような最新技術を駆使した本格ガジェットだが、アクションカムや360度カメラ、スタビライザー付きの動画カメラ、それにカメラ付きドローンなども、カメラの可能性を広げたトイカメラの末裔のようなものだと思う。

焦点も露出もシャッタースピードも固定式なので、撮影は激ムズ

トイカメラ大好きおじさんのこの僕が、久しぶりに購入した本格トイカメラ(変な言い方だな)がある。
チェキ用のフィルムを使用するタカラトミー製のインスタントカメラ、“Pixtoss(ピックトス)”だ。

このカメラの最大の特徴は、すべてが手動式だというところ。
フラッシュのOn/Offスイッチ以外は、ボタンもなければ液晶画面もセンサーもない。
操作はただ、レンズの脇についたレバーを「よいしょ」という感じで押し下げ、シャッターを切るのみ。
写真は、普通のインスタントカメラのように自動で出てくるわけではなく、本体下部についた回転式レバーを手でグルグルと回して排出する。
写真自動送り出し機能がないので、一度シャッターを切ったフィルムを送り出さないままもう一度シャッターを切れば、二重露光となる。

近距離撮影のみに対応する固定焦点式で、焦点距離は0.5〜1mの間だけ。
シャッタースピードも露出も固定なので、白昼やフラッシュ撮影する場合は白飛び防止のため、半透明になっているキャップ兼用のフィルターをつけなければならない。
カメラの方では特に何もしてくれない、全自動ならぬ全手動式のこのインスタントカメラは、出たとこ勝負の面白さもあれば、計算の上でなんとも不思議な印象の写真を撮ることもできる。

メーカーのキャッチコピーは“気まぐれエモいインスタントカメラ”。
このコピーから推察できるように、自撮り大好きな若い女の子をメインターゲットにした商品のようだが、こんなに面白そうなおもちゃ、放っておく手はない。
『きまぐれオレンジ☆ロード』世代のおじさんにも遊ばせろ! と思って購入。
お値段はコジマで税込6,570円だった。
この値頃感も往年のトイカメラのようで実によい。

ところがこのカメラ。
すべて機械の方で勝手に調整してくれる最近のカメラに慣れていると、想像以上に激ムズなのだ。
そりゃそうだ、焦点も絞りもシャッタースピードも固定なんだから。
僕も最初の1パック分のフィルム(10枚)は、ほとんどが白飛びかアンダーかピンボケで無駄にしてしまった。
でもそれだけに、攻略できたときの喜びは大きい。

愛すべき2020年式トイカメラ“ピックトス”。
当分は手放せない気がする。

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『糖質制限の真実』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『STUSSY2017 FALL/HOLIDAY COLLECTION』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

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