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佐藤誠二朗「グリズリー世代のバック・トゥ・ザ・ストリート」
グリズリー……それは北アメリカ北部に生息する大きな灰色のヒグマの名であると同時に、白髪交じりの頭を形容するスラング。頭にちらほら白いものが目立ち始める40~50代を、アラフォー、アラフィフといってしまえば簡単だけど、いくつになってもオシャレと音楽が大好きで遊び心を忘れない彼らを「グリズリー世代」と名付けよう――
そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。

1999年生まれのSONYの名機・クロックラジオについて思う二、三の事柄

どんなモノでも製造されてから30〜40年も経過すれば、おのずと味が出てかっこよく見えてくるから不思議だ。
“時間”という魔法が効いてくるのだろう。
たとえば、うちの近所にホンダ・シティを持っている人がいるんだけど、走っている姿はめちゃくちゃ輝いていて、見かけるとついうっとり眺めてしまう。

自分が持っていたモノを思い返してみると、たとえば1980年代前半、小学校高学年の頃に愛用していた東芝製のラジカセ。
1980年代中頃、高校生の頃の相棒だったアイワのポータブルカセットプレーヤー。
大学生のときに乗っていた、1987年式のフォード・フェスティバ。
いずれも大量生産の安物だったけど、もし今でも持っていたら、かなりのオシャレ物件になっていたはずだ。
でも残念ながら、いずれも激しく使い倒したうえで廃棄したり人に譲ったりしちゃった。
まあ、それが当たり前なんだけど。

一方、製造から10〜20年くらいしか経過していないモノはまだ時間の魔法が十分に効いておらず、ただ古いだけの価値がないものに見える。
スマホが普及する直前の後期ガラケーなんか、到底オシャレには見えないものだ。

僕が持っているオーディオ製品の中にも、微妙なものがある。
1999年に発売された、SONYのCD&ラジオ付き卓上クロックだ。
出張や旅行のお供として海外で使われることを想定してつくられた商品で、世界のラジオ局が受信でき、時計もワールド対応になっている優れもの。
でも時間の魔法がまだ十分ではないので、ただ古臭い代物に見える。

いまは古臭いだけの微妙な代物だけど、いつか再び輝きだす日が来るはず

2000年だっただろうか。僕はこれを、いまの妻からプレゼントしてもらった。
その頃のSONYは今よりもっと輝いていて、リンゴマークの新興コンピューター会社なんて目ではない、世界に君臨する超一流エレクトリックメーカーだった。

製品も洗練されたものが多くて、このクロックラジオもそのひとつ。すごくかっこよく見えた。
ファッション誌の撮影現場でヘアメイクさんが持っていて、ロケ先でモデルさんにメイクを施す一時間ほどの間、これで音楽をかけていた。
それを見て、僕も欲しくなったのだった。

僕のSONYクロックラジオは、どこも故障していない完動品。傷も汚れもほとんどない。
もちろん大事に使っていたからだけど、それよりもその後の数年間で、音楽を聴く環境が劇変したことの方に要因がある。
2001年の初代iPod発売がきっかけだ。多くを語る必要はないだろう。

そもそも新しいモノ好きな僕は、ビッグウェーブに積極的に乗っていったので、このクロックラジオはほとんど使わないままお蔵入りとなった。
でも捨てなかったのは、電池で動くスピーカー付きラジオなので、いざというときに非常用として使えると思ったからだ。

そして久しぶりに引っ張り出し、こうして改めて見てみると、やはり名機だなと思う。
試しに電池を入れてラジオを聞いてみたら、少しノイズが混ざる軽いアナログな音もノスタルジックで悪くなかったりする。

もう少し寝かせて、再び輝きだす日を待ってみるか。

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『糖質制限の真実』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『STUSSY2017 FALL/HOLIDAY COLLECTION』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

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