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せきしろ「東京落物百景」
落とし物の数だけ、物語がある――落とされたモノにも、そして落とした人にも。
『去年ルノアールで』『たとえる技術』などの著作で知られる作家せきしろが、東京の街の片隅で、本当に見つけたさまざまな落とし物について考える妄想ノンフィクション。

前回は子どもたちの宝探しゲームの宝物かもしれない落とし物を多数、発見した著者。
今回は、コロナ禍でなにかと話題になった、いまや日常のマストアイテムとなった落とし物を発見したようで――

アレンジされて捨てられたアベノマスク? にも見えるマスクの落とし物

コロナで本来の力を発揮したかもしれないパーティーグッズのマスク

都内で発見したアベノマスク、ではなさそうなマスクの落とし物。(写真/ダーシマ)
都内で発見したアベノマスク、ではなさそうなマスクの落とし物。(写真/ダーシマ)

1978年に公開されたジョージ・A・ロメロ監督の映画『ゾンビ』(Dawn of the Dead)。この映画の中で生存者がショッピングモールに逃げ込んで篭城するシーンがあった。当時子どもだった私は近所のスーパーに行くたびに「もしもここに立て篭ったら……⁉️」と想像したものだ。それ以降のゾンビ映画でも多少なりとも籠城シーンは見られ、その度に私の想像も広がっていった。

やがて、「もしもパーティーグッズ売り場に立て篭ることになったら」という想像もするようになった。東急ハンズに逃げ込んだとしよう。東急ハンズには武器になるようなものも防具になるようなものも揃っているのだが、ゾンビが侵攻してきてそれらのフロアには行けなくなり、結果パーティーグッズ売り場しか陣地がなくなってしまう。そんな想像である。

この場合、使える道具はパーティーグッズのみ。そのパーティーグッズのみでわが身を守らなければいけない。

たとえば『おもしろタスキ』というパーティーグッズ。

『おもしろタスキ』というのは文字通りタスキであり、「本日の主役」や「スケベ代表」、「今夜のシンデレラ」「日本一の司会者」と書かれているもので、誰もが一度は目にしたことがあるだろう。

この『おもしろタスキ』を身につければ防御力が多少なりとも高くなる。さすがに1枚だと心許ないが、何枚も重ねて身につけておけば(イメージはミイラ男)、万が一ゾンビに噛みつかれた場合でもゾンビの歯は皮膚にまで到達しにくくなる。たとえそうならなくても、何も対策をしないよりは気持ち的に楽になる。

それだけではない。意外だと思われるかもしれないが、おもしろタスキは武器としても使える。こちらも攻撃力は決して高くはないが、ゾンビを叩く、ゾンビを縛って動きを止める、ゾンビを転ばせて時間を稼ぐなどの攻撃に使えるのだ。生前の記憶が残っているタイプのゾンビで、しかもパーティーグッズで大笑いしていたタイプのゾンビならば、『おもしろタスキ』で爆笑させるという攻撃もある。

また『おもしろタスキ』には無地のものもあるので、「私はゾンビではありません」「私は噛まれていません」などのメッセージを書き込めば誤って攻撃されることを防ぐこともできる。

もちろんパーティーグッズは『おもしろタスキ』だけではなく、有名人にそっくりなラバーマスクやコスプレ衣装でさらに防御力を上げたり、ハリセンで叩いたり、サイコロトークのサイコロを投げて陽動したり、クラッカーでビックリさせたりすることだって可能だ。

このようにパーティーグッズが私たちを守ってくれることだろう。

そして道に落ちていたこのマスク。

これもまた外見からわかるようにパーティーグッズのような用途で作られたものなのだが、コロナが流行し始めてからのこの数ヶ月は本来のマスクとしての力を発揮したことだろうし、私たちを守ってくれたはずだ。

まるで役目を終えたように道にあるそのマスクに、私はただただ感謝したのだ。

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せきしろ

せきしろ●1970年北海道生まれ。主な著書に、映像化された『去年ルノアールで』や、映画化された『海辺の週刊大衆』、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(共に双葉社)など。また、又吉直樹氏との共著『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)も。
ツイッターhttps://twitter.com/sekishiro

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