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佐藤誠二朗「グリズリー世代のバック・トゥ・ザ・ストリート」
グリズリー……それは北アメリカ北部に生息する大きな灰色のヒグマの名であると同時に、白髪交じりの頭を形容するスラング。頭にちらほら白いものが目立ち始める40~50代を、アラフォー、アラフィフといってしまえば簡単だけど、いくつになってもオシャレと音楽が大好きで遊び心を忘れない彼らを「グリズリー世代」と名付けよう――
そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。

現在はレジャー用として余生を送る、僕の青春のピストバイク

以前、某メディアの仕事で某実業団自転車チームの監督、某氏に取材したときのこと。
インタビューの主題ではない雑談の中で言っていたことがとても印象に残った。

曰く、「東京の車道を自転車で走るなんて、自殺行為ですよ」。
これは氏がオフレコで語ったことであり、僕も裏を取っていないので、間違っていても責任は取れませんが、以下のような驚くべき事実を教えてくれたのだ。

東京の主要道路の多くは、先のオリンピック(1964年)の前に突貫で整備された。
その際、手っ取り早く車の流れを良くするため、車道から自動車以外を排除する政策をとった。
当時の通産省は大手自転車メーカーに働きかけ、歩道を走っても安心な、重心の低い低速度安定自転車=ママチャリの開発を促進し、普及に努めた。
道幅などの道路状況は当時とあまり変わってはいない。そもそも自転車が走れる設計ではない。
昨今、行政が「自転車は車道を」との指導を強めているが、東京に限ればこれは完全に間違い、頓珍漢な話である。危ない。

某氏は率いるチームのメンバーに、危険な東京の道路は決して走らせないようにしているという。
僕はその話を聞いて「やっぱりそうか」と強く納得した。
お上からのお達しに従って自転車ではなるべく車道を走るようにしていた僕は、246や環八で何度もヒヤリとしたことがあったのだ。

某氏の話を聞いてからというもの、僕は東京で使う自転車はママチャリのみ。
そして歩道だけをゆっくり走る、と心に決めた。

今では郊外のサイクリングロードを走るために使っている青春のピストバイク

そう決めた途端、持っていた一台の自転車の処遇問題が出てきた。

2000年代中頃から後半にかけて、にわかに巻き起こったピストバイクブーム。
僕は当時編集長を務めていた雑誌でピストバイクの増刊号を作るなどして、ブームの片棒を担いでいた自覚がある。
純粋に流行りものが好きな性格でもあるので、みずからビアンキの“ピスタ”というピストバイクを購入。乗って楽しんでいたのだ。

ノーブレーキピストによる事故多発問題などで取り締まりが強化されるようになり、日本国内のピストバイクブームは急速にしぼんでいったが、僕はその後もビアンキ・ピスタを街乗り用に使い続けていた。
ビアンキ・ピスタは細いフレームのいかにも速そうな外観。
変速ギアのないシングルスピードの自転車だけど、その気になってペダルを踏み込めば、実際にかなりのスピードが出る。

この自転車に歩道は似合わない。
というか、本当に速いので歩道を走ったら危険だし、白い目で見られる。
だから当然のごとく車道を走っていたのだが、某氏の話を聞いてからは怖くなり、行き場がなくなってしまったのだ。

で、いまはどうしているのかというと、完全レジャー用に鞍替えしているのです。
マイカーの屋根に自転車用キャリアを設置。家族で郊外に出かけるときなんかに、持っていくようにしている。

シングルスピードのバイクは構造が単純なので故障などのトラブルは少なく、自力でのカスタムも簡単。それに手入れもしやすく、軽いので屋根の上に積むのも楽勝。
こうして僕の青春のピストバイクは現役で活躍しているというわけなのだ。

宝の持ち腐れなどというなかれ。
湖畔一周のサイクリングロードなんかを、ピストバイクで走ると最高です。

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『糖質制限の真実』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『STUSSY2017 FALL/HOLIDAY COLLECTION』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

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