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佐藤誠二朗「グリズリー世代のバック・トゥ・ザ・ストリート」
グリズリー……それは北アメリカ北部に生息する大きな灰色のヒグマの名であると同時に、白髪交じりの頭を形容するスラング。頭にちらほら白いものが目立ち始める40~50代を、アラフォー、アラフィフといってしまえば簡単だけど、いくつになってもオシャレと音楽が大好きで遊び心を忘れない彼らを「グリズリー世代」と名付けよう――
そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。

かつて編集者の必携品だったダーマトを、いまだに使っている理由

「ダーマトグラフ」というやや特殊な筆記具をご存知だろうか?
ワックスをたっぷり含む軟らかくて太い芯を、紙でくるんだ色鉛筆のこと。
ガラスや金属、プラスティック、ビニールなど、普通のペンでは無理な素材にも難なく線を描け、簡単に消すこともできるので幅広い用途に使われるが、もともとは手術の際に皮膚へ目印を記す医療用ペンだったのだとか。

ダーマトグラフというのは、この類のペンを国内で唯一製造している三菱鉛筆の商標。
一般名称はグリースペンシルというのだけれども、ダーマトグラフあるいは略して“ダーマト”の方が通称化している。

このダーマト、かつては編集者の必携品だった。
デジカメ革命以前、雑誌や書籍に掲載する写真は、一般的にポジフィルム(色が反転するネガではなく、撮影対象の色がそのまま写るフィルム)で撮影されていた。
ポジを一枚ずつルーペでチェックし、使用する写真を決めるのは編集者の役目で、「良き」と思った写真はスリーブの上からダーマトで○印をつけておく。
さらに、決定写真を切り出して一枚ずつ“ポジ袋”に入れ、ダーマトで使用するページの番号などを書いておくのだ。
軟らかいダーマトならば、焼き増しの効かない大事なポジフィルムに傷をつける危険がないので、写真・編集・印刷業界などでよく使われていた。

仕事の資料本にダーマトでグイグイ線を入れるとなんだか気分が良くなってくる

さて、そんな時代から月日は流れ。
オールドスクールな編集者の思い出をよそに、ダーマトなんか使ったこともないデジタルネイティブ編集者が闊歩する時代になった。
僕も最後にダーマトで写真にチェックを入れたのは、だいぶ昔のこと。
でもいまだにダーマトはコンスタントに使っている。

個人的な楽しみで読む本は、汚したり折れたりしないように大事に扱うのだが、仕事の資料とする本は、付箋を貼り、折り目をつけ、そして大事な箇所にダーマトでアンダーラインを入れていくのだ。

アンダーラインは蛍光ペンの方がいいんじゃない?と思われるかもしれないが、いちいちキャップを外したり付けたりするのが意外とわずらわしいし、それに受験勉強を思い出すので好きではない。
それよりダーマトでグイグイ線を入れていると、なんだか昭和時代の文筆家にでもなったようで気分がよろしい。

そういえば“痕跡本”という、古書を好む人の間でも相当マニアックとされる趣味があるらしい。
前の持ち主が残したアンダーラインや書き込み、ページの折り込みなどを見つけ、アレコレ想像を巡らす楽しみ方だという。
痕跡本を特別に集めている古書店もあるのだとか。
僕がダーマトでアンダーラインを書き込んだ本も、いつか中古市場に流れた末に誰かが見つけ、想像を巡らせてくれるのかな?

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『糖質制限の真実』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『STUSSY2017 FALL/HOLIDAY COLLECTION』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

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