そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。
2019.10.8
大人の男が着る初秋のワンマイルウェアは、ヘンリーネックロンTに限る
いつでもどこでもTシャツでOKだった夏が終わり、ちょっと涼しくなってくると悩むのが“ワンマイルウェア”だ。
ワンマイルウェアとは、ほんのちょっとした外出時に着る服のこと。
1マイル=1.609kmだから、犬の散歩や近所のコンビニに行くくらいがちょうど当てはまる。
秋の始まりのこの時期、Tシャツだと少し肌寒いが、スウェットやニット、上着を着るほど寒くはない。
襟付きの長袖シャツだとちょうどいいけど、犬の散歩ごときでわざわざシャツを着るのはちょっと窮屈だ。
で、ちょうどいいのがロングTシャツ。
だけどロングTシャツというのは、中年以上の男性にはちょっと厳しいアイテムである。
半袖Tシャツだと大丈夫なのに、袖が長くなるだけでなぜか間延びした情けない雰囲気が漂ってくるからだ。
そういった“抜け感”は、ツヤツヤした若者にはちょうどいいのかもしれないが、いい年のおっさんだと、本当に知性や魂まで抜けているように見えるので注意が必要。
でもまあ近所までだからいいか、と安易に考えるのは良くない。
僕の場合、自宅で仕事をしているので、平日の昼間から近所の奥様方とよく顔をあわせる。
中年ニートや子供部屋おじさんだと思われないように、いくらワンマイルといっても少しだけ気を引き締めなければならない。
ジェントルマンの国で生まれた由緒正しきスポーツウェアだから大丈夫!
長きにわたる研究のすえの私見だが、大人の男のための初秋ワンマイルウェアとして最適なのは、ヘンリーネックのロンTであると断言したい。
クルーネックやUネック、Vネック、ボートネックなどのバリエーションがあるTシャツの首もとデザインのうち、唯一ボタンを使う仕様なのがヘンリーネックだ。
“ヘンリー” という呼び名は、イギリスの地名に由来している。
ロンドンから西へ約55km離れたテムズ川上流の小さな田舎町、ヘンリー・オン・テムズ。毎年初夏、ここをスタート地点としてロンドンまでテムズ川を下るボートレースが開催される。1839年に発足したヨーロッパ最古のボートレース、ヘンリー・ロイヤル・レガッタだ。
イギリスを中心とした世界各国のチームが参加し、19部門の対抗戦が開催されるヘンリー・ロイヤル・レガッタは、テニスのウィンブルドン選手権、競馬のロイヤルアスコット開催、ゴルフの全英オープンと並ぶ、イギリスの夏の風物詩だ。
かつてそのレースで多くの選手が着用していたシャツが、首元にボタンをつけた前開き形状のTシャツ。つまりヘンリーネックTの原型なのである。
ヘンリー・ロイヤル・レガッタと、僕がコンビニに行くときの格好に何の因果関係もないのだが、そんな由緒正しきヘンリーネックTなら大丈夫! 隣の奧さんに見られてもOK! という気がするのだ。
なんとなく、気分的に。
僕が持っているヘンリーネックのロンTは3種類。部屋着の延長なので当然、お手頃なファストファッション系のものだ。
ユニクロのワッフル生地のものは着心地がいいので、色違い・サイズ違いで持っている。ネイビーの少し厚手のものは、かなり前に買ったH&M×デヴィッド・ベッカム。だいぶ傷んできているので、もうそろそろおさらばだ
そして最近追加したのは、仲屋むげん堂にあった麻素材の薄手なネパール製のものである。
蛇足だが、ヘンリーネックよりもさらにリラックスできるワンマイルウェアとして、いま気になっているのが、“鯉口シャツ”や“ダボシャツ”と呼ばれる昔ながらの前開きシャツ。『男はつらいよ』の寅さんが着ているあれだ。
きっと最高に快適なのではないかと思うんだけど、あれに手を出してしまったら、ご近所の評判関係も確実に終わるので、我慢しているのである。
