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渋カジ~僕に紺ブレ購入を決意させた山下達郎とボズ・スキャッグス

グリズリー……それは北アメリカ北部に生息する大きな灰色のヒグマの名であると同時に、白髪交じりの頭を形容するスラング。頭にちらほら白いものが目立ち始める40~50代を、アラフォー、アラフィフといってしまえば簡単だけど、いくつになってもオシャレと音楽が大好きで遊び心を忘れない彼らを「グリズリー世代」と名付けよう―― そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。

渋カジとは、渋谷あたりに集まる若者が発信源となった、プレッピーなアメカジスタイルを基調とするファッショントレンド。
全盛期は1980年代中頃から1990年代前半までなので、ちょうど僕の高校から大学生時代にあたる。

だがその頃の僕は、パンク、ニューウェーブ、ハードコア、オイ!、スカ、マッドチェスターといった、キワモノすれすれのロックとファッションに夢中だったので、渋カジのような王道のユースカルチャーとは無縁だった。

というよりも、ラルフローレンの紺ブレやバンソンの革ジャンを着て、ゴローズのジュエリーをぶら下げつつ、ラクロスのスティックを片時も手離さない彼女と海辺をドライブしながら、カーステで山下達郎を聴いているやつなんて、みんなアホだ敵だ早く死ねと思っていた。

で……、今から10年ほど前、日本の音楽好きの間でにわかにシティポップとAORに対する再評価の波が起こった。

歳を食い、それなりの柔軟性が備わっていた僕はその波にひょいと乗り、遅ればせながらボズ・スキャッグスやエア・サプライ、ジョージ・ベンソンにネッド・ドニヒー、それに大瀧詠一や山下達郎、村田和人、佐藤博などなど、それまで避けていた往年のAORとシティポップを、基本から一気に聴きまくった。

「ふう、なんて素敵なんだ。今までホントすみません」と心の中で謝りながら。

理解するのに30年かかったけれども……

僕は好きな音楽ができると好きなスタイルが決まっていく。だからAORやシティポップが好きになってから、ファッションの好みの幅もちょっとだけ広がった。
あの頃の渋カジ野郎の気持ちも、今さらながら少しわかったような気がした。

そんなわけで、死んでも着るものかと思っていた紺ブレを一着買った。

そして今年は久々に紺ブレがトレンドになったので、いそいそとクローゼットから出して着ているのだ。

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『オフィシャル・サブカル・ハンドブック』『日本懐かしスニーカー大全』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

ツイッター@satoseijiro

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