2024.10.25
アポロの後継、アルテミス計画を徹底解説!【前編】冷戦以降の国際情勢と宇宙開発の関係とは?
この連載では、独立行政法人理化学研究所、NASAの研究員として研究に携わった経験と、天文学分野で博士号を取得した知見を活かし、最新の宇宙トピックを「酒のつまみの話」になるくらい親しみやすく解説します。そして、宇宙と同じくらいお酒も愛する佐々木さんが、記事にあわせておすすめの一杯もピックアップ。
今回は、再び人類を月へと送り込むアルテミス計画について。アポロ計画の後継プロジェクトともいえるのがこのアルテミス計画です。それぞれのプロジェクトを推し進めた背景には、時代を象徴する国際情勢がありました。
国際情勢と宇宙開発という視点を軸にプロジェクトを解説します。
第24回「国際情勢とアルテミス計画」のはなし
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宇宙飛行士をイメージした時に、多くの人の頭の中に浮かぶのは宇宙ステーションでふわふわ浮いている姿や、アポロ計画で月面に降り立っている姿ではないでしょうか?
アポロ計画から約60年、今、人類は再び月面を目指す計画を世界一丸となって進めています。
「アルテミス計画」と呼ばれ、様々な取り組みが既に始まっていますが、宇宙に関する仕事をしている人以外には、あまり知られていないかもしれません。
ということで今回は、アポロ計画の後継プロジェクトであるアルテミス計画について、その歴史的背景と、そのユニークな計画の進み方について紹介していきます
アルテミス計画とは、アメリカのNASAが中心となって進めている国際的な月探査プログラムです。目標は月面に再び人間が降り立ち、そこから月面に実験施設などの基地を設置していくことです。
アルテミス計画では、2025年に月の周りを周回するチャレンジを、2026年には女性を含む宇宙飛行士4名を月面に着陸させることが念頭に置かれています。そして、その後も月面での長期滞在を実現する基地の建設や、現地での資源の活用までが考えられています。
月だけにとどまらず、2030年代に火星への人類の着陸までもが見据えられており、今後数十年の宇宙開発の中心となるミッションになります。
アルテミス、という名前はギリシャ神話の女神からきています。月や狩猟の女神として知られており、アポロンという神と双子です。アポロ計画の意思を継ぐというのは、ミッションの内容だけでなくそのネーミングにも込められています。
アルテミス計画の話をすると、よく問いかけられる質問があります。それは「なんでアポロから約60年も月に行けなかったの? アポロ計画での月面上陸はやっぱり嘘(フェイク)なの?」といったものです。
アポロ計画の話につきまとう捏造説もときどき耳にします。
この長い期間、月面に人類が行かなかった理由には、国際情勢と技術開発の方向性、両方の要因が絡んでいると言えます。
1969年にNASAが初めて月面着陸を成功させた時、地球上は冷戦時代でした。アメリカと旧ソ連が直接は戦わないにしても、技術力でお互いを牽制しあっていた時代です。この時代には、国の威信をかけてさまざまな取り組みが行われてきました。そのうちの一つが宇宙探査だったわけです。
旧ソ連は、米国に先駆けて大陸間核弾道ミサイル(ICBM)の技術を実現し,初めて人間を宇宙へ到達させることにも先に成功しました。その時の宇宙飛行士が「地球は青かった」という名言でも知られるユーリ・ガガーリンです。これらの成果から、アメリカの技術力・軍事力に匹敵する力を示し始め、2国間の技術競争は加速していきました。
弾道ミサイルと宇宙への交通手段である宇宙ロケットは目的の違いこそあれ、概ね同じ技術であることからも、宇宙開発が軍事力を誇示する方法の一つだったとも言えるわけです。
アメリカの宇宙開発の方針はNASAが握っている印象が強いかもしれませんが、実は国防高等研究計画局(DARPA)もNASAと協力関係にあることからも、宇宙開発と軍事開発の距離の近さを感じます。
冷戦という時代背景があったからこそ、国の威信をかけた競争が生まれ、アポロ計画を実現させることができたと考えられます。
しかし、時代も変わり、緊迫していた国際情勢が沈静化すると月面着陸の技術開発を推進する必要もなくなり、優先順位が下がっていきます。
加えて、月面開発に対する技術力には安全性やコスト面に懸念が残っていたことも、次の月面へのチャレンジが進まなかった理由となりました。
現代では、様々な予算問題を乗り越えて実現可能性や将来の利益を見越した計画がたてられていきます。その中で、当時とは違う国際情勢の後押しと、技術力の向上がアルテミス計画の発足と実施に繋がっているのです。
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