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「人間は特別な生き物」は傲慢か真実か? 動物の専門家が考える「ヒトにしかない能力」とは

×死を悼むのは人間だけ

それを科学的に証明するのはなかなか難しいのですが、近年、ヒト以外の動物も仲間の死を「悲しむ」のではないかと考えられるようになってきました。
例えば、ゾウは、死んだ仲間を鼻で何度も触ったりするなど、その骨や亡骸に関心を抱くことが知られています。あたかも仲間の死を悼むかのようです。

ゾウと交流する筆者。(画像提供/大渕希郷)
ゾウと交流する筆者。(画像提供/大渕希郷)

ヒト含め動物の姿形が多種多様なように、心というのも多種多様
その姿や生態だけでなく、心の在り方も、それぞれの動物種の進化によって得られたものなのです。
ですから、ゾウがヒトと同じように死を悼むのか? と言われたら、それはきっと違うでしょう。
でも、まったく同じ心の動きや表現行動ではなくとも、死んだ仲間に何かしらの関心を払うというのは、やはり悲しみに近いものなのではないかと思います。
そのあたりは、今後の研究が大いに期待されるところです。

動物を擬人化するのではなく、動物種ごとの心の在り方が理解できれば、種の壁を超えて、心を通わせることができるようになるかもしれません。

いまここにはないことを想像できるのはヒトだけ

一方で、やはりヒトだけが、ずば抜けて高い能力を持っていると思われるものもあります。
それは「想像力」です。
「地球はいつできたんだろうか」、「太陽はいつなくなるんだろうか」、そんな遠い過去や未来に思いを馳せて想像を巡らせることができるのはヒトだけです。
あるいは、「○○ちゃんが学校を休んでいるけど、どうしたんだろう? 大丈夫かな?」と、いまここにいない人に思いを馳せることもそうです。

もちろん、ごく近い未来であれば「こうすれば、ああなる」というのは理解できる動物はいます。
そうではなくては、道具のパートで述べたように、枝をカギ状にして差し込めば虫が釣れるとは思い至らないでしょうし、波を起こせば氷が割れてアザラシが落ちるとは思わないでしょう。
ヒトが持っているのは、それだけではなくて、はるか遠い場所、未来、過去、いまここにはないことを想像する力。時間と空間を超えた、いまここにないことについてです。
ヒトともっとも近い遺伝子を持つチンパンジーやボノボも、今、この瞬間にないことを想像することはしません。

「この地球上でいずれ100億に達するであろう人類が、自然とともにサステナブルに暮らすためには、どうしたらいいのか」
そんなことを考えられるのは、ヒトの想像力があってこそ。
長い進化の過程を経て獲得したヒト特有の高い想像力とコミュニケーション力を存分に生かして、明るい地球の未来を切り拓いていきたいものですね!

本連載は今回で最終回となります。ご愛読ありがとうございました!

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大渕希郷

おおぶち・まさと●どうぶつ科学コミュニケーター
1982年神戸市生まれ。京都大学大学院博士課程動物学専攻、単位取得退学。その後、上野動物園・飼育展示スタッフ、日本科学未来館:科学コミュニケーター、京都大学野生動物研究センター・特定助教(日本モンキーセンター・学芸員 兼任)を経て、2018年1月に独立。生物にまつわる社会問題を科学分野と市民をつなげて解決に導く「どうぶつ科学コミュニケーター」として活動中。
夢は、今までにない科学的な動物園を造ること。特技はトカゲ釣り。
著書に『新ポケット版 学研の図鑑絶滅危機動物』『新ポケット版 学研の図鑑 爬虫類・両生類』(いずれも学研教育出版)、『絶滅危惧種 救出裁判ファイル』『動物進化ミステリーファイル』(いずれも実業之日本社)、『どうぶつ恋愛図鑑』『へんななまえのいきもの事典』(いずれも東京書店)など。最近は、「こども環境地球儀ハトホル」(渡辺教材教具)など教材開発にも関わる。愛称はぶっちー。
公式ホームページ: http://m-ohbuchi.com/

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