2021.5.9
「人間は特別な生き物」は傲慢か真実か? 動物の専門家が考える「ヒトにしかない能力」とは
×死を悼むのは人間だけ
それを科学的に証明するのはなかなか難しいのですが、近年、ヒト以外の動物も仲間の死を「悲しむ」のではないかと考えられるようになってきました。
例えば、ゾウは、死んだ仲間を鼻で何度も触ったりするなど、その骨や亡骸に関心を抱くことが知られています。あたかも仲間の死を悼むかのようです。
ヒト含め動物の姿形が多種多様なように、心というのも多種多様。
その姿や生態だけでなく、心の在り方も、それぞれの動物種の進化によって得られたものなのです。
ですから、ゾウがヒトと同じように死を悼むのか? と言われたら、それはきっと違うでしょう。
でも、まったく同じ心の動きや表現行動ではなくとも、死んだ仲間に何かしらの関心を払うというのは、やはり悲しみに近いものなのではないかと思います。
そのあたりは、今後の研究が大いに期待されるところです。
動物を擬人化するのではなく、動物種ごとの心の在り方が理解できれば、種の壁を超えて、心を通わせることができるようになるかもしれません。
いまここにはないことを想像できるのはヒトだけ
一方で、やはりヒトだけが、ずば抜けて高い能力を持っていると思われるものもあります。
それは「想像力」です。
「地球はいつできたんだろうか」、「太陽はいつなくなるんだろうか」、そんな遠い過去や未来に思いを馳せて想像を巡らせることができるのはヒトだけです。
あるいは、「○○ちゃんが学校を休んでいるけど、どうしたんだろう? 大丈夫かな?」と、いまここにいない人に思いを馳せることもそうです。
もちろん、ごく近い未来であれば「こうすれば、ああなる」というのは理解できる動物はいます。
そうではなくては、道具のパートで述べたように、枝をカギ状にして差し込めば虫が釣れるとは思い至らないでしょうし、波を起こせば氷が割れてアザラシが落ちるとは思わないでしょう。
ヒトが持っているのは、それだけではなくて、はるか遠い場所、未来、過去、いまここにはないことを想像する力。時間と空間を超えた、いまここにないことについてです。
ヒトともっとも近い遺伝子を持つチンパンジーやボノボも、今、この瞬間にないことを想像することはしません。
「この地球上でいずれ100億に達するであろう人類が、自然とともにサステナブルに暮らすためには、どうしたらいいのか」
そんなことを考えられるのは、ヒトの想像力があってこそ。
長い進化の過程を経て獲得したヒト特有の高い想像力とコミュニケーション力を存分に生かして、明るい地球の未来を切り拓いていきたいものですね!
本連載は今回で最終回となります。ご愛読ありがとうございました!