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カエルに「しっぽ」がない理由は? 尾と生存戦略の意外な関係性

尾をなくしてジャンプ力を身につけたカエル

ひとことで「カエル」といっても種類は7000以上
そのグループまるまる尾がなくなってしまっているわけですから、非常に興味深い進化です。

カエルは、無尾類とも呼ばれ、大人になると尾が消失。
その理由は、ジャンプして逃げる、いわゆるカエル飛びをするのに邪魔だったからではないかと言われています。

同じようにジャンプする動物としてカンガルーがいますが、カンガルーの場合は、頑丈な尾をバランサーにすることでジャンプします。

しかし、カエルの場合、左右の後ろ脚を同時に蹴ることで強力なジャンプ力を生み出します。
カエルのジャンプ方式では、中途半端な強度しかない尾は邪魔な存在。だから、ひきずられ、摩擦された結果、退化する傾向になったのではないか……と考察されているわけです。なお、泳ぐときも平泳ぎになるので、尾がなくとも十分な推進力を得ることができます。

「カエル飛び」のために消失したのは尾だけではありません。カエルの骨格全体が飛び方の関係で特殊化しています。
例えば、背骨は太く短くなり、脚の脛骨けいこつ腓骨ひこつおよび腕の橈骨とうこつ尺骨しゃっこつがそれぞれ1本に癒合して太い骨になっています。肋骨はほとんどありません。
体全体の骨の数が少なく、太くなっていることによって、跳躍と着地の衝撃に耐えうるようになっているのです。

タゴガエルの骨格。背骨が太短くなるほか、特殊化が進んでいる。(イラスト/大渕希郷)
タゴガエルの骨格。背骨が太短くなるほか、特殊化が進んでいる。(イラスト/大渕希郷)

カエルは尾をなくし、骨を変え、ジャンプ力を身につけたことにより、動物界の中で7000種を超える繁栄に成功しました。これはすごいことです。
自然界の生存競争において、敵から逃げる術を持つことがいかに重要なことかがわかります。

カエル以外には、ヒトを含む類人猿(チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータン、テナガザルのなかま)、コアラにも尾がありません
その理由については、専門家によるさまざまな議論があるものの、決着がついていない状態です。

それぞれの祖先には尾があったようですが、なぜ消失してしまったのか、謎は深まるばかりです。
なお、ヒトではごくまれに生まれてからも尾がある人がいて、動かせることもあるようです。

脊椎動物全体の中では、ヒトをふくむ尾のない動物は非常にマイノリティな存在
今後「しっぽ」の役割と消失の理由がさらに明らかになってくると、思わぬ進化の過程や私たちの存在理由についても明らかになってくるかもしれません。
動物にはまだまだ不思議がいっぱいで、わくわくします。

●主な参考文献
犬塚則久(2006年)『「退化」の進化学』講談社ブルーバックス

松井正文(1996年)『両生類の進化』東京大学出版会

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新刊紹介

大渕希郷

おおぶち・まさと●どうぶつ科学コミュニケーター
1982年神戸市生まれ。京都大学大学院博士課程動物学専攻、単位取得退学。その後、上野動物園・飼育展示スタッフ、日本科学未来館:科学コミュニケーター、京都大学野生動物研究センター・特定助教(日本モンキーセンター・学芸員 兼任)を経て、2018年1月に独立。生物にまつわる社会問題を科学分野と市民をつなげて解決に導く「どうぶつ科学コミュニケーター」として活動中。
夢は、今までにない科学的な動物園を造ること。特技はトカゲ釣り。
著書に『新ポケット版 学研の図鑑絶滅危機動物』『新ポケット版 学研の図鑑 爬虫類・両生類』(いずれも学研教育出版)、『絶滅危惧種 救出裁判ファイル』『動物進化ミステリーファイル』(いずれも実業之日本社)、『どうぶつ恋愛図鑑』『へんななまえのいきもの事典』(いずれも東京書店)など。最近は、「こども環境地球儀ハトホル」(渡辺教材教具)など教材開発にも関わる。愛称はぶっちー。
公式ホームページ: http://m-ohbuchi.com/

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