2021.2.14
メスにペニスがある虫、一妻多夫の鳥、15分おきにオスを求めるライオン…メスの求愛が激しい動物たち
動物まみれのめまぐるしくも愉快な日常とは……!?
生き物の知られざる生態についても、自筆のイラストとともに分かりやすく解説します。
動物の専門家によるお仕事&科学エッセイです。
前回は、カメの冬眠に潜むリスクについて解説しました。
今回は、バレンタインデーにちなみ、メスからの求愛についてのお話です。
生物界では珍しい“肉食系女子”
2月14日のバレンタインデーは、私の誕生日……なのですが、日本では一般的に「女性から愛を告白する日」として知られています。
生物の世界では、オスの方からアプローチするのが主流です。
メスは卵一つ作るのにたくさんのエネルギーを要しますが、それと比べてオスは大したコストをかけずに精子を量産できます。人間も女性が排卵するのは月に1度ですが、男性の精子がつくられるのは日々数千万。さらに受精してからも、メスには妊娠・出産という大仕事が待っていて、一部の生物に例外はあるものの、その間に次の妊娠はできません。
貴重な生殖の機会を狙うオスがたくさんいて、その中からメスに選んでもらえるように、オスの方から必死にアピールするわけです。
しかし、少数派ながらも、メスからオスへアプローチする動物もいます。
今回は生物界では珍しい“肉食系女子”(実際には「肉食動物」ではないものもの含む)な動物の生態を紹介します。
メスのペニスで交尾するトリカヘチャタテ
トリカヘチャタテは、チャタテムシの一種で、南米ブラジルに生息する体長3mm程度の昆虫です。
チャタテムシは日本でも見られる虫で、日本に生息する種は、よく本や畳、穀類などにいるため「害虫」扱いされることも。ただし、チャタテムシ類は非常に多様な種を含み、害虫として知られるチャタテムシとトリカヘチャタテとでは、系統的にはかなり離れています。
とりわけ、南米にいるトリカヘチャタテは、洞窟という特殊な環境に暮らすせいか、独自の進化を遂げており、なんと、メスにペニスがあるのです。
以前この連載でメスにペニス“もどき”があるハイエナの生態について紹介しましたが、トリカヘチャタテの場合、“もどき”ではありません。
そのペニスには生殖機能があり、メス自らオスの体内に精子を取りにいく仕組みです。
詳しく見てみると、このペニスは根元に返しのような「トゲ」がある抜けにくい構造で、一度オスに挿入されると、2〜3日は挿れっぱなし!
オスの気持ちを想像するだけで震えます……。
いや、それでもメスにペニスはおかしいだろ! と思う方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、私の手元にある、『岩波生物学事典』(岩波書店)をひくと、
「陰茎 [(英)penis] 動物の雄体から雌体に挿入され精液を輸送にするのに用いられる雄性外部生殖器官」
とあります。
ですから、このトリカヘチャタテの雌雄逆転した生態を明らかにした研究(2014年)は、辞書や教科書を書きかえなければならないほどの発見として注目されているのです。
同研究をまとめた論文は、「ペニス=オスの生殖器」という定義を覆すものとして話題を集め、2017年にイグ・ノーベル賞を受賞しました。
さらに、このイグ・ノーベル賞を受賞したチームの研究では、トリカヘチャタテのメスは、ペニスを使って精子を吸い取るだけでなく、エネルギー補給もしていることがわかっています。いや、オスが精子とともに栄養も送っているというべきでしょうか。
生息地であるブラジルの洞窟にはエサが乏しいため、卵を成熟させるために必要な養分を、オスが体内から供給しているのではないか、ということです。