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悪者の汚名返上! 腐肉も食べるハイエナはサバンナのマルチプレーヤーだ!

誤解3: 不気味に笑う

ハイエナの鳴き声のひとつが人間の笑い声そっくりで、Laughing hyena(ラフィング・ハイエナ)という英名がついているほどですが、あくまでも人間の笑い声に似た声を出しているだけであって、愉快なことがあって笑っているわけではありません。

実はハイエナは、笑い声のような声のほかにも、うなり声、うめき声、低い声、叫び声など実に様々な声を発します
人間には笑い声のように聞こえる声にもいくつか種類があるのですが、私には“giggle”(ギグル。直訳:クスクス笑う)と呼ばれる声がとても印象的でした。
私の耳には「ヒャ、ヒャ、ヒャ、ヒャ、ヒャ!」と聴こえるのですが、giggleは何かから逃げるときに出す声です。
また、ライオンなどに出会って警戒する際にも、人の笑い声のような“loud grunt-laugh”(ラウド・グラントラフ。直訳:大きく唸るような笑い)と呼ばれる声を出したりします。

他にも様々な意味を持つ声や、ボディランゲージを活用することで、想像以上に細やかなコミュニケーションを取っているようです。その知性は霊長類に匹敵するほどと言われ、数を数えることもできるようです。

ぜひ動物園やあるいはアフリカで(?)彼らのコミュニケーションを観察してみてください。

誤解4 :イヌやネコの仲間

見た目から勘違いされやすいのですが、ハイエナはイヌやネコの仲間ではありません。
ハイエナは分類学的には哺乳綱 食肉目(ネコ目) ハイエナ科に属する動物です。

系統樹(生物の進化の道筋を描いた図)をみてもらうとわかるのですが、食肉目内の系統関係によれば、ハイエナ科に近いのはマングース科と、フォッサなどが属するマダガスカルマングース科で、そのとなりにジャコウネコ科がきます。ジャコウネコ科は都内はじめ日本に外来種として定着しているハクビシンなどが属する科です。
そして、そのとなりにようやくネコ科がきます。イヌ科なんて、近くもなんともないですね!

食肉目の系統樹(Eizirik et al., 2010; Yonezawa et al., 2007より作成)。(イラスト/大渕希郷)
食肉目の系統樹(Eizirik et al., 2010; Yonezawa et al., 2007より作成)。(イラスト/大渕希郷)

ハイエナに限らず野生動物のことはまだまだ分かっていないことが多く、GPSやドローン、遺伝子解析機器など時代の流れとともに登場する最新技術によって少しずつ明らかになってきている現状があります。
今みなさんの中にある動物の情報やイメージが正しいとは限りません。
本当かな? 矛盾点はないかな? と、ちょっと角度を変えて眺めてみるだけで、もしかしたら誤解されているいろんな動物たちの汚名返上の糸口が見えてくるかもしれません。

●主な参考文献
Holekamp, KE; Sakai, ST; Lundrigan, BL (2007). “Social intelligence in the spotted hyena (Crocuta crocuta)”. Philosophical Transactions of the Royal Society of London B. 362 (1480): 523–538.

Jo Marchant (2011).” Hyenas can count like monkeys”. Nature NEWS. Published online.

Eizirik, E. et al. (2010) “Pattern and timing of diversification of the mammalian order Carnivora inferred from multiple nuclear gene sequences.” Mol Phylogenet Evol. 2010 Jul; 56(1): 49–63.

Yonezawa, T. et al. (2007) “Molecular phylogenetic study on the origin and evolution of Mustelidae.” Gene 396, 1-12.

長谷川政美(2011) 『新図説 動物の起源と進化―書きかえられた系統樹』八坂書房

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大渕希郷

おおぶち・まさと●どうぶつ科学コミュニケーター
1982年神戸市生まれ。京都大学大学院博士課程動物学専攻、単位取得退学。その後、上野動物園・飼育展示スタッフ、日本科学未来館:科学コミュニケーター、京都大学野生動物研究センター・特定助教(日本モンキーセンター・学芸員 兼任)を経て、2018年1月に独立。生物にまつわる社会問題を科学分野と市民をつなげて解決に導く「どうぶつ科学コミュニケーター」として活動中。
夢は、今までにない科学的な動物園を造ること。特技はトカゲ釣り。
著書に『新ポケット版 学研の図鑑絶滅危機動物』『新ポケット版 学研の図鑑 爬虫類・両生類』(いずれも学研教育出版)、『絶滅危惧種 救出裁判ファイル』『動物進化ミステリーファイル』(いずれも実業之日本社)、『どうぶつ恋愛図鑑』『へんななまえのいきもの事典』(いずれも東京書店)など。最近は、「こども環境地球儀ハトホル」(渡辺教材教具)など教材開発にも関わる。愛称はぶっちー。
公式ホームページ: http://m-ohbuchi.com/

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