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悪者の汚名返上! 腐肉も食べるハイエナはサバンナのマルチプレーヤーだ!

誤解2:横取りした死肉ばかり漁っている 

ほかの動物の獲物を横取りしたり、動物の死肉を漁ったりというネガティブなイメージが定着しているハイエナですが、自ら狩りもします

そもそも、自然界ではほかの動物が狩りをした獲物を隙あらば横取りするのは当たり前。ライオンだって狩りをすることもあれば、横取りをすることもあります。なぜなら自ら狩りをして獲物の命を奪うより、狩りの後でヘトヘトの相手から仕留められている獲物を奪って食べた方がずっと効率的だからです。

また、ハイエナは確かに動物の死体を漁って食べることもありますが、これは大型肉食獣の中では優れた特徴ともいえます。
言うまでもなく死体の腐敗が進めば腐肉となるわけですが、人間をはじめ、多くの動物は腐肉を食べるとお腹を壊してしまいます。
しかしハイエナは腐った肉にたくさんいる有害なバクテリアから身を守る内臓器官をもっており、腐肉“も”食べることができるのです。

こうした腐肉食動物を「スカベンジャー」と呼びますが、サバンナにいるスカベンジャーはハイエナやハゲワシくらいで少数派。
食料の競争相手が少ないという利点がありますし、実は死体となった動物を自然に戻す“お掃除屋”としても重要な役割を果たしています。

さらにハイエナは、あごの力がサバンナ最大クラス。しかも、肉を切り裂く歯(裂肉歯)とは別に、骨を砕くための歯(骨砕歯)まで持っています。これを使って肉だけでなく骨まで砕いて食べてしまいます。骨はきちんと消化されるため、彼らの糞は白いことが多いです。
骨というのは、実はカルシウムを含むだけでなく、その内部にある骨髄にはたくさんの栄養があり、彼らはそれも余すところなく食べることができる能力を持っているというわけです。

赤矢印が骨砕歯。そのすぐ後ろにあるのが裂肉歯。(イラスト/大渕希郷)
赤矢印が骨砕歯。そのすぐ後ろにあるのが裂肉歯。(イラスト/大渕希郷)

つまり、ハイエナはハンターにもなれば、掃除屋にもなる。サバンナのマルチプレーヤーなのです。
ライオンやその他のサバンナの大型肉食獣は、骨砕歯を持っていませんし、腐肉を食べるための能力がありません。
腐肉も新鮮な肉も食べられるという点では、ライオンより食料確保に関して有利といえるかもしれません。

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新刊紹介

大渕希郷

おおぶち・まさと●どうぶつ科学コミュニケーター
1982年神戸市生まれ。京都大学大学院博士課程動物学専攻、単位取得退学。その後、上野動物園・飼育展示スタッフ、日本科学未来館:科学コミュニケーター、京都大学野生動物研究センター・特定助教(日本モンキーセンター・学芸員 兼任)を経て、2018年1月に独立。生物にまつわる社会問題を科学分野と市民をつなげて解決に導く「どうぶつ科学コミュニケーター」として活動中。
夢は、今までにない科学的な動物園を造ること。特技はトカゲ釣り。
著書に『新ポケット版 学研の図鑑絶滅危機動物』『新ポケット版 学研の図鑑 爬虫類・両生類』(いずれも学研教育出版)、『絶滅危惧種 救出裁判ファイル』『動物進化ミステリーファイル』(いずれも実業之日本社)、『どうぶつ恋愛図鑑』『へんななまえのいきもの事典』(いずれも東京書店)など。最近は、「こども環境地球儀ハトホル」(渡辺教材教具)など教材開発にも関わる。愛称はぶっちー。
公式ホームページ: http://m-ohbuchi.com/

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