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J2史上初の100ゴール! 大黒将志はバリバリの理論派だからこそ、38歳でも点を取り続ける。

パスの“出し手”を引き上げる“あげちん”ストライカー!?

大黒は動き出しで勝負するストライカーである。
一見、感覚派と見られがちだが、バリバリの理論派。
海外のストライカーの映像を見て学び、自分やチームメイトの動きも映像でチェックする。30代前半で日本サッカー協会の指導者ライセンスをB級まで取得済みで、教え上手という評判もよく聞く。

いいタイミングでスペースに出てボールを受け取るには、出し手との呼吸が何よりも大切となる。そのすり合わせに、大黒は力を注いできた。

「監督はチーム全体を見なきゃいけないわけじゃないですか。こういう細かいところのプレーは、選手で詰めていけばいいと思うんですよ。栃木の選手はみんな素直やし、割と僕が言うことを聞き入れてくれています。僕としても、良くなると思っているから言っている。わかってくれば、彼らも伸びていきますから」

決勝点を挙げた昨年7月の町田戦。チームメイトの岡崎建哉(現モンテディオ山形)がパスをもらうタイミングで大黒はペナルティーボックスの外に出て、目の前のスペースを空けてから浮き球のパスを呼び込んだ。これをバックヘッドで当てて、前に出てきたGKの頭上を越えてゴールを決めている。

偶然の産物ではない。大黒が描くゴールのイメージを、みんなで共有したからこそ生まれたゴールであった。

「岡崎のほうにパスが出る何本も前から思い描いていて、その場合、どういうふうにやればいいかというのがある。普段の練習から伝えていて、みんなが分かっているからああいうボールが最後に出てくるんです」

言葉の説明だけでは不十分と感じれば、映像を使って個別に説明する。そうやって、どのクラブでもパスの“出し手”を引き上げてきた。特に東京ヴェルディ時代の柴崎晃誠(現サンフレッチェ広島)に対しては彼のポテンシャルを踏まえて、要求が多かったという。

「晃誠にはよく言いましたよね。一度、合宿のときに『あの場面、パス出せるやろ』って言うたら『オフサイドです』って返してきたんで、部屋に呼んでその映像を一緒に見たんですよ。そうしたらアイツ『全然(パス)出せますね』って(笑)。

あとはもう『オフサイドかどうかは俺が一番わかっているから出してくれ』と伝えて。そういうひとつひとつのシーンですり合わせていけば、試合でも欲しいタイミングで出てくるようになりますから」

流浪のストライカーと記すと「独善的」「一匹狼」などと言ったどうしてもニュアンスを伴いがちだ。だが大黒は、そうではない。根気強く伝えて成功体験を与えることで、チームメイトの心をも揺らしてきた。

理論と矜持、そして情熱。

ガンバ大阪でプロになって、日本代表としてドイツワールドカップの舞台も踏んだ。フランス、イタリア、中国でもプレーした。日本でも西から東まで多くのクラブを渡り歩いてきた。どこに身を置こうと、誰とプレーしようと関係ない。味方からパスを引き出し、思いの込められたボールをゴールに叩き込む。ただ、それだけだ。

いかにして天性のストライカーとしての才能は磨かれていったのか。
大阪に生まれ、阪神タイガースが大好きだった少年時代に、その源流があった――

第2回に続く)

profile
おおぐろ・まさし/1980年5月4日生まれ、大阪府豊中市出身。
栃木SCのフォワード。G大阪ジュニアユース、G大阪ユースを経て、99年トップに昇格。
01年、コンサドーレ札幌にレンタル移籍して以後、イタリアセリエAのトリノをはじめ、フランス、中国など4か国のべ12チームを渡り歩いている。
日本代表には2005年初選出。アジア最終予選初戦の北朝鮮戦で後半ロスタイムに決勝点を取るなど活躍。2006年ドイツW杯にも出場。
2018年シーズンまででJリーグ通算171得点を記録(J1で69点、J2で102点)
試合など最新情報は、栃木SCの公式HPでチェック!
https://www.tochigisc.jp/

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二宮寿朗

にのみや・としお●スポーツライター。1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「サッカー日本代表勝つ準備」(実業之日本社、北條聡氏との共著)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)など。現在、Number WEBにて「サムライブル―の原材料」(不定期)を好評連載中。

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