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占いと心理学、心を照らすふたつの光――石井ゆかりさんが読む『昼間のスターゲイザー』

 入り込んで読み進めるとしばしば、文頭の名前に目をやることになる。時々、どちらが話しているのかわからなくなるからだ。私はけっこう対談を読むのは好きで、折に触れて読んできているつもりだが、こういう体験はあまりなかった。お二人があまりにも響き合っているから起こることだろうと思う。

――そうそう。以前、僕はエッセイで「現代占星術はプトレマイオス革命をした」と書いたことがありました。コペルニクスは地球中心の、つまりは「自分中心」の世界を壊したけれど、逆にプトレマイオスに立ち戻ることで自分の安定した場を回復するのだと。(後略)』(本書P.208)
 占星術は天動説、つまり地球が世界の真ん中にあり、天の星々がその周りを回っているのだ、という宇宙観を採る。コペルニクスからガリレオを経て、今では地球が太陽の周りを回る地動説が子どもでも知る常識となっているが、現代の占星術はプトレマイオスの天動説に立って、世界や人生を語る。この天動説の世界は、閉じた系(システム)である。
 東畑さんはこれをうけて、青年期の人々の不安について語る。だれもが若い頃、自分がこの世界の中でどのシステムで生きればいいのかを探す。でもそれは、現代では容易に見つからない。閉じたシステムがないからだ。
 たとえばフィクションの世界では、逆にクローズドなシステムのはざまでスリリングに喘ぐキャラクターがよく見られる。選べない運命と闘ったり、閉じたシステムから脱出しようとしたりする物語は多い。そうした世界観を、東畑さんはこう表現する。『言ってみれば運命が強すぎるんですよね。自由がなくて、これでは苦しい。でも、運命が弱すぎると人は何をしていいかわからなくなります』。

 強すぎる運命と、弱すぎる運命。運命にも「度合い」があるのである。私たちの多くは、自由に生きたいと願いながら、同時に、運命を生きたいと願っている。運命を探しながら、自由を求めている。両者には「度合い」がある、と考えると、すごく考えやすくなる。東畑さんはもちろん、比喩的な意味でこの表現を使っている。しかし、占いをする側にとって、これはこのまま、ナマでいける一文である。

 占いは運命を語る。どんなに「占いは強制的なものではない、あなた次第で運命は変えられる、自由意志はある」と前置きをしたとしても、占いは運命を語る。「あなたはこういう生まれつきである」ということと「あなたにはこんな未来が待っている」ということとは、占いの中で分かちがたく結びついている。ほかならぬ「占われる側」が、それを無意識のうちに前提している。だからこそ、占いを求めにくる。私はどんな人で、この先何が待っているのか? という問いかけの中に、既に運命への直観が刻み込まれている。占いはこの問いに答えなければならない。

 では、心理学ではどうか。たとえば東畑さんはこんな例をあげている。『心理学では、十歳頃に自我体験をすると言われています。自我体験というのは「私とは何か」を考える事で、急にメタ認知が生じるってことです。僕もそのくらいの頃、「死んだらどうなるんだろう」と考えて、すごく怖くなったのを覚えています』。つまり心理学もまた、「自分はだれで、どうなるのか」という、この「運命の問い」に向き合うことになっている。それは、私たちの心に、占いや心理学よりも先に、運命のイメージが存在しているからではないか。

 喉に引っかかった小骨のように、私の中にはずっと「運命」という言葉が引っかかっている。運命とはつまり「私はだれか」と「私はどうなるのか」を重ね合わせた概念で、アイデンティティというものがそれに近似するのではないか。そう考えてきた。とはいえ運命は、外部に対して閉じている。運命を生きているという手応え、安心感の一方には、自由のない閉塞感、束縛の苦しみがつきまとう。「強すぎる運命/弱すぎる運命」という言い方は、それを言わば「解決する」表現のように感じられた。人間は運命を変える以外に、弱めたり強めたりできるのかもしれないのだ。

 科学史において、過去の「科学」は新しい科学の登場によって、常に周縁化されていく。占星術と錬金術はその二大巨頭で、現代にもまだその系譜は続く。「昔はそう教えていたけれど、今はそうではない」というカギカッコつき「科学的知識」は、今も筍の皮のように剥きおとされ続けているのである。そうした「周縁化された科学」の中には、消えてしまわないものもある。錬金術は現代にはほぼ消え去ったが、星占いはまだ、残っている。もちろん、科学としてではなく(もとい、科学的に星占いの妥当性を示そうとする研究家は存在するが、少なくとも今のところ)、オカルトとして、ファンタジーとして存在している。
 「混ぜるな危険」とはいえ、現代的な星占いの側では、どっぷりユング心理学をバックグラウンドにしている。本書でもユングがかなりたっぷり語られている。とはいえ現代主流となっている心理学の世界では、ユングは周縁的な存在と言える。さらに心理学と隣接する精神医学の場では、ユングはまともにとりあわれない。おのおのの周縁に、グラデーションがある。「混ぜては危険」なものであっても、なぜか境目をよく見るとグラデーションがあるのが、人間社会の不思議でおそろしい、ゆえにおもしろいところだと思う。

 世に占いの入門書はたくさんあり、昨今では特に実践のためのわかりやすい解説が多く出版されている。その点本書では、学識ある心理士に対して「占い」の成り立ちや基本を語り起こすという、かなり変わった建て付けになっている。つまり、ただ占いのシンボルの意味を辞書的に、またはプラクティカルに解説する、ということになっていない。なぜ、どうしてそういう記号、そういう概念になっているのか、という歴史的なバックグラウンドからゆたかに語り起こされているのである。さらに、それらの占いの概念が、心理学的に見ればどんな広がりを持ち、どんな説明ができるのか、という別のコスモスへの橋渡しが行われる。この橋を行ったり来たりして、歴史と占いと人間の心が接続されていく。占いと心理学を行ったり来たりしながら、読み手はそれを知識や学問の世界ではなく、ほかならぬ私たちの心の話として、脳裏に組み立て直すことになる。

 占いと心理学は混ぜてはいけない。でも、私たちの心というものはひとつで、両者はそれを照らす、別々の光にすぎない。両者の言葉が流れ込むのは、私たちの、今を生きている心である。その中で双方の言葉は否応なく混じり合って、私たちが今を生きるこの一秒一秒と響き合う。

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2026年5月11日発売 1,980円(税込)
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●心理学と占いに共通するもの
●昼間の星を見ようとすること
●人生には占いの時間も流れている
●占いの分類と夢を見ることの意味
●弱い宿命論と勇気の占星術
●象徴に対する信頼
●救世主か、詐欺師か? ……など
古代の肝臓占いから占星術、ユングや夢分析について縦横無尽に語りつくす!

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新刊紹介

石井ゆかり

ライター。雑誌などで星占い記事、連載を数多く手がける。12星座別に年間&月間占い、恋愛占い、カレンダー解説などを記した幻冬舎『星栞』シリーズは毎年ベストセラーに。このほか『星ダイアリー2026 』(幻冬舎コミックス)、『星占い的思考』(講談社文庫)など著書多数。公式サイト「石井ゆかりの星読み」 では毎朝7時「今日の占い」をLINEで無料配信中!

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