2026.5.11
5月11日発売! 新刊『昼間のスターゲイザー』東畑開人さんによる「まえがき」全文公開
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ここに「昼間のスターゲイザー」というタイトルの由来があります。それは真昼に星を見る人です。昼の空は、太陽の大きな光で明るいから、星々の小さな光は普通は見えません。青空がどこまでも広がっているように見える。
しかし、本当のところ、星は宇宙の向こうで変わらずにまたたいています。そして、月が大気圏の向こうから潮の満ち引きに影響を与えているように、星々もまた人間にさまざまな影響を与えているかもしれない(これが占星術ですね)。
ですから、青空をじっと見つめる。そこに見えるはずのない星を見つけようとする。そういう人が昼間のスターゲイザー。
僕と鏡さんの話が大いに盛り上がるのはここです。占いと心理学は同じように見えないものを見ることに関わっているから、僕らは古今東西、縦横無尽にスターゲイズすることについてお喋りしたわけです。
実際、話題は大いに広がりました。古代の鳥占いや肝臓占いにはじまり、催眠術やイタコの話をし、精神分析やユング心理学の話をしました。実際にタロットをめくったり、占星術のホロスコープを描いたりもした。夢分析や恋占いの話になったり、お祭りやおみくじの話になったりもする。そして、新宿の母も登場すれば、現代の占いの館やカウンセリングルームの内装の話まで出てきます。
なんて豊かでカラフルな対話なのだろう、と原稿を直しながら、幾度も思ってしまいました。わがことながら。
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さて、ここまでコインの表の話をしてきました。僕と鏡さんは見えないものを見ようとするスターゲイザーの親戚である。これが占いと心理学の関係の一つの側面です。
しかし、あなたの親戚がそうであるかもしれないように、親戚だからといって、仲がいいとは限りませんよね。他人であれば放っておけることでも、許せなくなり、憎しみが抑えられなくなるのが近しい間柄というものです。
実際、心理学者の中には占いを「怪しい」と毛嫌いしている人もいるでしょうし、占い師の中には心理学を「つまんない」と馬鹿にしている人もいるかもしれません。そこには緊張関係があって、国境が厳しく管理されている。それには相応の理由もある。
ですから、ここで根本的テーゼ③。
占いと心理学は混ぜるな、危険。
実を言うと、僕はこの本が世界的に見ても例のないユニークな本になったのではないかとひそかに自負しているのですが、それは占い師と心理士が対話することが珍しいからではありません。
実際、占いと心理学を混ぜたような本ならば世の中にたくさん出回っています。たとえば、本書に登場するリズ・グリーンの『占星学』という本なんかは、ユング心理学と占星術のハイブリッドの最高峰です。あるいは、そのユング自身が易を立てたりしていて、占いに多大な関心を持っていたのは有名な話です。
現代でも、心理士の中には占いを学んで実践している人もいるでしょうし、占い師の中にも心理学のテクニックを勉強している人がいることでしょう。占い師と心理士が協力して、新しい占いを作り出したり、新しい心理学を作り出そうとしたりする試みはこれまでにも無限になされてきました。
しかし、ユングやグリーンのような超絶的な知性の例外を除いて(そして彼らもまた、すべてが成功したわけではなく)、それらの多くが、いいとこどりをしようとして、悪いところどりになってしまうのが占いと心理学の困難なところです。
星と心を混ぜることで、占いとしても心理学としても中途半端なものになってしまったり、ときにはひどく有害になってしまいます。想像してみてください。スクールカウンセラーが占いを活用していたら信頼に関わりますし、占い師が相談者のトラウマに安易に触れようとするならば、大変なことになってしまいますよね。
その理由は、占いと心理学がそれぞれに異なる知をバックボーンにしているからです。占いは前近代から続く宗教的な知を出自としていて、心理学は近代にはじまる科学的な知を背景にしている。
もちろん、この本の中で見ていくように、その区別自体は実は曖昧だったり、部分的に重なっていたりして、あるいは心理学側のポジショントークであったりもして、いい加減なものではあるのですが、それでも神とか霊とかそういった大いなるものを前提とするか否かで、占いと心理学には大きな差異があります。
だから、占いと心理学のあいだには厳重な結界が張り巡らされているわけです。混ざりやすいからこそ、混ぜるな危険。
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僕がこの本をユニークで新しいと思うのは、占いと心理学を安易に混ぜようとしたのではなく、むしろその二つが異なる原理によって運営されていることを認識し、その区別を厳密に守った上で、その先へと対話を積み重ねたからです。まるで金星と水星で遠隔通信をするようにして、僕らは話し合った。
ここに最後の根本テーゼ④がやってきます。
占いと心理学を比較する。
そう、比較。これこそがこの本でなされたユニークな挑戦です。
占い師と心理士。僕らはそれぞれの分と専門性を守りながら、つまりは慎重に慎重を重ねて国境を踏み越えないように気を付けながら、それでいてオープンマインドで話をしようとしました。
そこでなされたのは、占いと心理学の共通点を見つけたり、相違点を確認したりすることによって、普遍的な構造を発見していこうとする人文学的な作業です。僕らはお互いを比較するべく対話を重ねました。
すると、実は固く閉じられているように見えた国境には隙間があることが見えてくるし、近代と前近代のあいだに張られた結界には裂け目がたくさんあり、さまざまなものが漏れ出て、行き交っていることがわかってきます。
ですから、「占いとは何か」と問うことを通じて、僕は「心理学とは何か」を考えることになりました。そして、さらにはその先にある「苦悩とは何か」「傷が癒されるとはどういうことか」「人生の意味とは何か」「心と運命の関係はどうなっているのか」という人間にとっての普遍的な問題を考えることになりました。
星と心を行き来することで、人間というものを見ようとしたということです。
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