よみタイ

『ゆく年くる年』を毎日放送してほしいくらいお正月が好き

『去年ルノアールで』『たとえる技術』などで知られる奇才・せきしろさんの最新刊『その落とし物は誰かの形見かもしれない』が4月5日に発売されました。
「よみタイ」で好評を博した連載「東京落物百景」(2018年10月〜2020年10月)を再編集した1冊。
東京を中心に街の片隅で本当に見つけたさまざまな落とし物と落とした人ついて、あれやこれやと思いを巡らせる、おかしくも切ない妄想エッセイ集です。

この刊行を記念し、連載や書籍の中から著者のせきしろさんが「特に思い入れが深い」と選んだ3篇を今回は特別掲載。その理由についても語っていただきました。全3回のスペシャル企画。第1回目の落とし物は、これ!

(構成/よみタイ編集部)
受験シーズンも卒業シーズンも過ぎた後に見つけた「正月飾り」の落とし物。(写真/ダーシマ)
受験シーズンも卒業シーズンも過ぎた後に見つけた「正月飾り」の落とし物。(写真/ダーシマ)

お正月の後はお正月の前

 私は正月が好きだ。あの非日常感が良い。正月の朝にいつもより澄んだ空気を吸って、この真新しさにいつまでも浸っていたいと思うのだ。また、12月になったあたりから「今から何かやり始めるより、新年から心機一転頑張ろう。その方がキリが良い」などと思い始める私にとって、正月のリセット感もたまらない。

 とはいえ、特に正月らしいことをするわけではない。羽子板をしたことはない。回すコマもない。カルタは持っているが遊ぶことはない。凧揚げは万が一高く揚げてしまった場合に注目を浴びることになりそうで怖い。強いて言えば初詣と餅を食べるくらいなのだが、とにかく正月に身を委ねていたくて仕方ない。

 しかし、正月は永遠のものではなく、終わりがくる。少しずつ日常へと戻っていく。

 朝の電車がまたラッシュになっていく。
 銀行は通常営業に戻る。
 かまぼこの値段が下がる。
 テレビはいつもの番組に戻り、朝から駅伝などやっていない。
 フジカラーのCMはもちろん、地元の企業の静止画のCMを見ることもない。
 店のシャッターから「年始は○日から営業します」と書かれたポスターが剝がされる。
 郵便ポストの投函口が通常になる。
 もう福男は決まっているし、荒れた成人式も終わる。
 年賀状はもう届かない。
 餅売り場も沈静化している。

 思えばクリスマスが終わり、世の中がガラリと年末モードに切り替わる頃が一番楽しかったかもしれない。テレビからは佐野厄よけ大師のCMが流れ、ゴミ集積所には年末年始の予定が貼られ、商店街の一角でしめ縄が売られ始め、ATMに長蛇の列ができる。どこからか聖書についてのアナウンスが聞こえてくることもあれば、第九が聞こえてくることもある。私は思い出に浸り続ける。

 そうしている間にも時は過ぎ、気づけば節分もひな祭りも終わり、スーパーではお彼岸に使うロウソクが存在感を示す時期になっている。受験シーズンも卒業シーズンも過去のものだ。さすがの私も正月を諦めようと思い、現実を受け入れようとする。

 ところがだ。道に思わぬものが落ちていた。
 それは紛れもなく正月飾りである。まさかこんなところで正月飾りに出会えるなんて。
 感動で私は立ちすくんだ。

 そう、正月はまだ残っていたのだ。私は正月を諦めようとしていた自分を恥じた。
「正月はまだ終わっていない。これからも正月気分でい続けよう!」
 道に落ちていたもののおかげで前向きになる日が来るとは思ってもいなかった。

 また負けそうになったら録画した正月番組を見よう。そこには正月がたくさん詰まっていて、爆笑問題がきっとネタをやっているはずだ。

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せきしろ

せきしろ●1970年北海道生まれ。主な著書に、映像化された『去年ルノアールで』や、映画化された『海辺の週刊大衆』、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(共に双葉社)など。また、又吉直樹氏との共著『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)も。
ツイッターhttps://twitter.com/sekishiro

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