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不機嫌は脳波によって伝染する?──慶應義塾大学教授・満倉靖恵さんはどのように感情を「定量化」したのか

不機嫌は脳波によって伝染する?──慶應義塾大学教授・満倉靖恵さんはどのように感情を「定量化」したのか

不機嫌がパンデミックになる理由

──『「フキハラ」の正体』に戻りますが、「ノーラ」という言葉が登場します。満倉さんは脳が発する電気信号を「脳のオーラ」、略して「ノーラ」と呼んでいるとのことですが、「ノーラ」が外側に発信されているから不機嫌が伝染するんですね。

満倉 脳波は見えませんが、確実に近くにいる人に影響を与えています。身近なところでは電磁波もそうですね。電磁波は見えませんが、大量に浴びると人体に影響があることがわかっています。脳波もそれと同じで、周囲の人が影響を受けるんです。
 たとえば、怒っている時の脳波はすごく高い周波数で、かつ、振幅が大きい。強くて早い信号だから脳波の中でもより伝わりやすい。一方、優しい気持ちの脳波はゆっくりしていて、振幅もそんなに高くない信号なので伝わるのが遅いんです。だから、嫌なほうが先に伝わってしまうんですよ。

──ネガティブな感情ほど伝わりやすいんですね。しかも、ポジティブだったり温かかったり柔らかかったりというのは、持続力が少ないし、伝播力も少ないと本書に書かれています。残酷な現実ですね。

満倉 残酷ですけど本当です。柔らかい気持ちとかって強い気持ちに押されるんですよね。だから、伝染りにくいし、自分で守るしかないんです。
 不機嫌のようなマイナスのノーラは人に伝染りやすい。しかも速いスピードで広がっていくので、私はその状態を「不機嫌パンデミック」と呼んでいます。不機嫌な人がいっぱいいると、職場がパニック状態になるということです。

──そうなった時にどうすれば自分を守れるのか。「香り」が守る方法の1つになるのではないか、というのが満倉さんの研究ですよね。

満倉 自分の気持ちを、マイナスから切り離すためには、五感に対して外部からの刺激を入れる必要があります。視覚、味覚、嗅覚、聴覚、触覚ですね。おいしいものを食べるのも、好きな音楽を聴くのもいいんですが、脳にダイレクトに影響するのが嗅覚だということが最近の研究でわかりました。匂いでマイナスのノーラの影響をリセットするのはありだと思っています。

──昨今のアロマブームは気持ちを整えることに有効なんですね。私たちが無意識のうちにやっていることが、満倉さんの研究によって科学的に証明されていくのが、この本の醍醐味だと思います。

満倉 科学的に証明することによって「本当なんだ」と思えることが大事だと思っています。そうすると納得感を持って自分で行動を起こすことができる。この本を書いたのも、その手助けになればいいなと思ったからです。それで貴重なデータを惜しげもなく出したんです。
 というのも、私自身、「何となく」が気持ち悪くてしようがないんです。数値化できないものが嫌なんですね。お医者さんから診察の時に「どのくらい痛いですか」と聞かれますが、何%痛いって答えられませんよね。そういうのを定性的と言うんですが、私ははっきりと数値で表したい。定性的の反対が定量的なので、定性的なものを定量化したいと思っています。それが私の研究の根本にあると思います。

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タカザワケンジ

たかざわ・けんじ●写真評論家、ライター、書評家
1968年群馬県生まれ。雑誌、Webに文芸書評、写真評論、作家インタビューを執筆するほか、文庫解説を手がける。『Study of PHOTO 』日本語版監修。金村修との共著に『挑発する写真史』がある。東京造形大学、 東京綜合写真専門学校、東京ビジュアルアーツほかで非常勤講師。

公式ツイッター@kenkenT

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