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不機嫌は脳波によって伝染する?──慶應義塾大学教授・満倉靖恵さんはどのように感情を「定量化」したのか

不機嫌は脳波によって伝染する?──慶應義塾大学教授・満倉靖恵さんはどのように感情を「定量化」したのか

書評家のタカザワケンジさんが、毎回話題の著者にインタビューする特集企画!
第2回は、慶応義塾大学教授で、初の新書『フキハラの正体 なぜ、あの人の不機嫌に振り回されるのか?』が話題を呼んでいる、満倉靖恵さんにお話をうかがいました。
満倉靖恵さん
満倉靖恵さん

「相手の一挙一動にびくびくする」「相手にいつも振り回される」「人が怒られているのを見ると、自分まで不安になる」……もしもこれらに心当たりがあるなら、あなたは「フキハラ」の被害者かもしれない。
「フキハラ」とは不機嫌ハラスメントの略。不機嫌な人が場の空気を緊張させ、無関係の人にストレスを与える。これはもはやハラスメントではないか。
 そんな誰でも経験したことがある現象を、科学的に解明したのが、『「フキハラ」の正体』(ディスカバー携書)の著者、満倉靖恵さんだ。驚くべきことに、不機嫌は脳波によって周囲の人間の脳にダイレクトに作用し、伝染するというのだ。
 よく知る身近な現象を科学した満倉さんは、なぜ本書を書いたのか。「フキハラ」研究について、動機や経緯含めお話をうかがった。

「感性アナライザ」で不機嫌に迫る

──『フキハラの正体』、大変興味深く拝読しました。満倉さんが不機嫌を研究しようと思われたのはなぜでしょうか。

満倉 不機嫌は伝染するんじゃないか──そう感じたことはみなさんあると思うんです。でもそれをサイエンスした人はいませんでした。私は世界で初めて、リアルタイムで感情を見える化する装置「感性アナライザ」をつくったんですが、「もし本当に不機嫌が伝染するのであれば測定できるんじゃないか。実験してみよう」と思ったのがきっかけです。

──満倉さんが開発された「感性アナライザ」は脳波で感性を分析するという装置。その発明自体が驚きです。

満倉「感性アナライザ」の仕組みを簡単に説明すると、脳波を測定して感情を分析する装置です。脳波だけでなく、体内の情報伝達物質であるホルモンが感情と強く結びついていることもわかっています。
 たとえばストレスを感じる時にはコルチゾールというホルモンが働きます。そこで、実験をする前と後でコルチゾールの値がどのぐらい変わったかを記録して、かつ、その時の脳波を測定して関連を見ていくのです。すると「コルチゾールの値がこういう上がり方をする時にはこんな脳波の特徴がある」といったことがわかるので、それを定式化したのが「感性アナライザ」です。完成までに17年ほどかかりました。

──「感性アナライザ」を使えば、不機嫌も数値として表れるということですね。実際の実験はどのように行ったんでしょうか。

満倉 被験者に「感性アナライザ」をつけたまま日常生活を送ってもらいます。そして、誰かが不機嫌になった時に、近くにいた人の脳波がどんな反応をしたのかを測定します。本当に不機嫌が伝染して、脳波に表れるのかを観察し続けたんです。

──どれぐらいの時間、つけっ放しにしてもらったんですか。

満倉 たいたい2日間ですね。2日ずっとつけていると、必ず何か嫌なことが絶対あるものです。1人が怒っていた時、周りもみんなストレス値が上がっているよね、ということがだんだんわかってきます。

──満倉さんがそもそも不機嫌を研究しようと思われたのはいつ頃からですか。

満倉 もともとストレスの研究をしていて、そこからなので、もう十五、六年前からです。

──では「感性アナライザ」の開発を始められた頃から、もう取り組まれていたと。

満倉 そうですね。不機嫌については当初から興味を持って研究していました。

──フキハラ(不機嫌ハラスメント)は新しい言葉ですが、経験的に納得できる人も多いと思います。不機嫌がハラスメントではないかという発想は、いつ頃から生まれたんでしょうか。

満倉 セクハラやパワハラのような、○○ハラスメントという言葉が出てきた頃からですね。ハラスメントは相手が嫌がることをすることですが、するほうは無意識についやってしまっていることが多いと思います。不機嫌は個人の感情だと思われていますが、実は周囲に伝染してしまうとわかったので、これはハラスメントになりうると思ったんです。

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タカザワケンジ

たかざわ・けんじ●写真評論家、ライター、書評家
1968年群馬県生まれ。雑誌、Webに文芸書評、写真評論、作家インタビューを執筆するほか、文庫解説を手がける。『Study of PHOTO 』日本語版監修。金村修との共著に『挑発する写真史』がある。東京造形大学、 東京綜合写真専門学校、東京ビジュアルアーツほかで非常勤講師。

公式ツイッター@kenkenT

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