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大槻ケンヂ「歌詞は結局、人々の無意識の集合体でもある。すると中には“予知”のようなものが書かれることも十分あり得ると思っている」【還暦記念詩集『幻と想』インタビュー 前編】

小説と歌詞、2つの創作における大きな違い

大槻はミュージシャンとしての活動と並行して、小説やエッセイも精力的に発表してきた。1992年に処女小説『新興宗教オモイデ教』(角川書店)を刊行して以降、作家としても独自のキャリアを築いている。小説の執筆と作詞には、どのような違いや共通点があるのか。話を聞いた。

「小説と詩では、脳の使っているチャンネルが違うと思います。作詞は、曲がまずあるから、鳴っている楽器の音で世界観ができています。一方で小説は、僕は手書きで書くんですけど、目の前に白紙の原稿用紙しかない。ゼロの状態から出発します。作詞も大変ですが、小説に比べればラクとは言わないまでも、やりやすい。小説を書くのは本当につらいんです」

幻想的な物語仕立てが多い大槻の詩だが、なかにはリアルな雰囲気のものもある。実体験をベースにしているものもあるのだろうか。

「実話はねー、まずないです。部分部分で自分の体験したことがモチーフや題材、単語として出てくることはあります。でも、体験談をそのまま詩にしたことは、これまで一度もないと思うなあ。例えば、今回の詩集に収めた作品に『大井競馬場』という曲があるんですが、その頃、本当に大井競馬場によく行っていました。『メグマレ』というボートレースの曲も、その頃よく行っていたから。ギャンブルには結局ハマらなかったけど、そういう場の雰囲気はいいなと思って、詩のモチーフに使いました。
『江ノ島オーケン物語』という曲に出てくる“白いポルシェ”という歌詞も、一時期、白いポルシェに乗っていたからですね。『荒井田メルの上昇』という曲は、早稲田通りでタクシーに乗っていたときに、トヨタのディーラーの前で女の子が乗ったバイクがクラウンにぶつかって飛ばされるのを目撃したんです。自分の中に残っていたその光景が、歌詞になりました。そんなふうに、自分の中の断片的な記憶がトリガーとなって、発想のヒントになることはあります」

女性が登場することも多い大槻の詩。かつては実在の女性をイメージして歌詞に広げていったこともあったというが、今回の詩集『幻と想』に収められた詩においても、特定の誰かが頭に浮かんでいたのだろうか。

「実はこの第三詩集では、モデルとなるような男性も女性もいないんです。それが、この時期の僕の作詞の特徴かもしれません。『I wanna be your Muse』(2021年リリースの「特撮」のアルバム「エレクトリック ジェリーフィッシュ」に収録)という曲で“ミューズ”という言葉が出てきますが、若い頃は実在の女性にミューズ的な感覚を持ったことはあったかもしれません。でもここ20年はないんですね。特に誰かに捧げるということはないと思います。誰か他人を発想のヒントにするよりも、自分の日常における心の動きの方に着目しています」

年齢を重ねるにつれて、詩の質感も変わってきた。

「若い頃は無自覚に自分の心象風景をテーマや物語に置き換えていました。それは10代の閉塞感です。大人になると自分をメタに見られるようになり、客観的になります。中年以降は自分語り的になります。ただ、中年の自分語りなんて誰も聞いてくれないので、それをいろんなテーマやモチーフ、ストーリーに置き換えて、つぶやいたり叫んだりしているんだと思います」

そして彼は付け加える。

「ただ、根本的なところは何も変わらないと思いますけどね」

以下、後編に続く。4月18日9時配信予定です。お楽しみに!

おおつき・けんぢ/1966年2月6日生まれ、東京都出身。男性シンガー・作家。
1988年、ロックバンド「筋肉少女帯」のボーカルとしてメジャーデビュー。
またバンド活動と並行して、小説やエッセイを執筆。映画化された『グミ・チョコレート・パイン』など著書多数。現在はバンドやソロなど、さまざまな活動を行っている。
公式HP◆http://www.okenkikaku.jp/

大槻ケンヂ還暦記念書籍『幻と想 03-25 大槻ケンヂ自選詩集』

『リンウッド・テラスの心霊フィルム』(1990年)、『花火』(2003年)『花火』に続く、待望の第三詩集。116編を自ら厳選し、すべてに手を加えた。また収録されたエッセイからは、所属事務所の倒産、「筋肉少女帯」の解散、インディーズからの再始動、コロナ禍での騒動など、「オーケン激動の20年」を読み取ることができる。(4月17日発売/百年舎)
購入はこちらから。

大槻さんも所属したナゴムレコードのエピソードも盛りだくさん!

1980年代に熱狂を生んだブームを牽引し、還暦をすぎた今もインディーズ活動を続けるアーティストから、ライブハウスやクラブ、メディアでシーンを支えた関係者まで、10代から約40年、パンクに大いなる影響を受けてきた、元「smart」編集長である著者が徹底取材。日本のパンク・インディーズ史と、なぜ彼らが今もステージに立ち続けることができるのかを問うカルチャー・ノンフィクション。
本論をさらに面白く深く解読するための全11のコラムも収録。

書籍の詳細と購入はこちらから。電子版も配信中です!

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新刊紹介

佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『オフィシャル・サブカル・ハンドブック』『日本懐かしスニーカー大全』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

ツイッター@satoseijiro

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