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大槻ケンヂ「歌詞は結局、人々の無意識の集合体でもある。すると中には“予知”のようなものが書かれることも十分あり得ると思っている」【還暦記念詩集『幻と想』インタビュー 前編】

1982年結成のバンド「筋肉少女帯」のボーカリストとしてデビュー以後、ミュージシャンとしての音楽活動、そして文筆活動など、カルチャーシーンに多くの影響を与え続ける大槻ケンヂが、2003年から2025年までに書いた詩を収めた、大槻ケンヂ還暦記念の詩集『幻と想 03-25 大槻ケンヂ自選詩集』(以下、『幻と想』)を刊行した。
「筋肉少女帯」のインディーズデビュー時から大槻に注目し続けてきた『いつも心にパンクを。Don‘t trust under 50』の著者、佐藤誠二朗が様々な思いを聞くロングインタビュー。前編は、まず最新詩集となる『幻と想』や、歌詞と小説創作との違いなどについて。

(取材・文/佐藤誠二朗 撮影/木村琢也)

未来のことを予知した歌詞

「僕は実際に事件が起こる少し前に、それを歌詞に書いていることがあるんですよ。ええ」

“医者にオカルトを止められた男”(2024年リリースの「筋肉少女帯」23枚目のシングル、および2025年発売の大槻ケンヂのエッセイ集タイトル)こと大槻ケンヂは、控えめながらもはっきりとした口調で、ややオカルトめいた話を口にした。

「たとえば、一連のオウム真理教事件が起こる何年も前に、『詩人オウムの世界』という歌詞を書きました。グルがカルトを率いてテロを起こし、最終的には弾圧されるっていう内容なんですね。そのほかにもいくつかあるんですけど、最近の例では2020年4月20日に配信した「特撮」のシングル『オーバー・ザ・レインボー〜僕らは日常を取り戻す』という曲です。これ実は、コロナ禍ががっつり来る前で、まだ知らない人もいた頃に書いた歌詞です。僕は“これは何かヤバい”と感じて、この災いを乗り越えていこうと書いたんです。まあ想像力がたくましいというか、ちょっとした予兆から“これは何か起きるんじゃないか”と考えているだけだとは思うんですけどね――」

そう前置きしつつも、大槻はさらに言葉を続けた。

「でも歌詞っていうのは結局、人が経験してきたこと、読んだ本や他者との関係で知ったこと、そういうものが文字に起こされると思うんです。小説もそうだけど。ということは、やっぱり人々の無意識の集合体ではあると思うんですよ。それが表面に現れたもののひとつというかね。そうすると中には“予知”のように見えるものが書かれることも、僕は十分あり得ると思ってるんです。ちょっとオカルトになっちゃうんですけどね」

発表後も歌詞を変え続ける理由

2026年3月某日。東京・神保町にある集英社の会議室。
ヴィヴィアン・ウェストウッドの服にポリゴンフレームメガネ、山高帽……。大槻ケンヂは黒づくめの出立ちで取材の席に現れた。

1982年結成のバンド「筋肉少女帯」のボーカリストとして長年シーンを走り続け、「空手バカボン」、「特撮」、「電車」といったバンドやユニット、およびソロミュージシャンとしての音楽活動、そして文筆活動まで、複数のプロジェクトを並行させてきた彼にとって、このたび刊行される第三詩集『幻と想』は、ひとつの節目とも言える一冊だ。

本書には、2003年から2025年までに大槻が書いた詩が収められている。

1999年、「筋肉少女帯」の活動凍結という大きな転機を経たのち、大槻は古くからの盟友である内田雄一郎(筋肉少女帯のベーシスト)、三柴理(筋肉少女帯の元・正規メンバー、現・サポートメンバー。キーボーディスト)とともに新バンド「特撮」を結成した。
2003年以降は、1988年の「筋肉少女帯」メジャーデビュー以来13年ぶりにインディーズへと活動の場を移し、大槻なりのペースで音楽活動を続けていく。
その後、2006年に「筋肉少女帯」が再結成されると、再びメジャーシーンでの活動が本格化していった。
今回の詩集は、そうした時代をまたいで生まれた作品をまとめたものである。

権利上の問題をクリアする意図もあり、『幻と想』に収められた116編の詩は、すべて初出の歌詞を見直し、本人の手による改稿が加えられている。
そのことについても話を聞いた。

「小説やエッセイなんかもそうですが、雑誌連載時と書籍にするときとでは、文章をだいぶ直しています。読み返していると、どんどん変えたくなってしまうんです。詩の場合も同じで、僕の場合はついつい多めに変えていると思います」

大槻ケンヂの“歌詞変更グセ”については、思い当たるところがあった。
1985年8月にナゴムレコードよりリリースした「筋肉少女帯」のインディーズデビュー作品である、4曲入りコンパクトLP「とろろの脳髄伝説」に収められている、バンドにとってはキャリアを通しての代表作となる曲『釈迦』の歌詞だ。
同曲は1988年のメジャーデビューアルバム「仏陀L」にも収められているが、インディーズバージョンとメジャーバージョンでは、サビを含む複数の箇所で歌詞が変更されていて、インディーズからメジャーへ至る3年間のあいだに、詩が熟成されていった過程が手に取るようにわかる。
キャリア初期からこの調子だった大槻は、あらゆる作品に発表後も手を入れ続けることで、自身の言葉をより鋭くし、独自の世界観をより磨き上げてきたのだろう。

『幻と想』に収められた詩には、自分自身の内面の変化や、日常のなかでふと生まれる心の揺れをすくい上げた作品が多い。
また、先述のコロナ禍という社会を揺るがした出来事を背景にした『オーバー・ザ・レインボー〜僕らは日常を取り戻す』や『COVID-19』(2021年リリースの「筋肉少女帯」21枚目のアルバム「君だけが覚えている映画」収録)といった作品も収められている。

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新刊紹介

佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『オフィシャル・サブカル・ハンドブック』『日本懐かしスニーカー大全』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

ツイッター@satoseijiro

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