2021.7.2
夜道を歩く女性の二人組が向かう先
すぐ手前まで近づいたところで、二人の足元がくっきり見えた。
ワンピースの裾からすらりと出た、細くきれいな足。そのどれもが、靴をはいていない。黒いアスファルトの上で、四つの裸足が白くきらめいている。
ギョッとしつつも、そのまま二人を追い抜いてしまう。
すぐに彼女らの顔を見ようと振り向く。
ところが背後には誰もいない。ただ、薄暗い夜道が続いているだけ。
(え?)
慌てて進行方向に顔を戻す。そこでまた驚いた。
百メートルほど先に、あの二人組が歩いているではないか。
やはり細長い影を二つ、足元からこちらに伸ばしながら、ゆっくり前へ進んでいる。
混乱しながら自転車を走らせた。
今度はすぐに追いついてやろうと、全力でペダルを踏み込む。
そのとたん、彼女たちは道路沿いの一軒家に入りこんでいった。
こちらも急いでそこに近づき、門の向こう側を確認する。
しかしそこには、人が入った気配がまったく感じられなかった。玄関先の常夜灯も玄関内の電気も点いていない。家はどこまでも、しんと寝静まっている。
どうにも気になったので、翌日、また例の家の前を通ってみた。
するとその門の両脇には、黒白の鯨幕が張られていた。
こっそり玄関先を覗くと「忌中」の文字が下がっている。
誰がいつ、なぜ死んだのか。
それがわかってしまうと、とてつもなく怖ろしいことになる気がして、急いでその場から逃げ出した。
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