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逢坂剛×酒井順子“博報堂出身作家”対談 「自分をかわいがると、どんな仕事でも楽しみが見つかる」

自分がかわいいから、つまらない仕事でも楽しみを見つける

酒井 どうやって得意先の身になることができたんですか。

逢坂 身になるというほどじゃないけれど、何かしらは楽しみがあるわけ。下町の組合のPRでも、ショーのバックにナマのフラメンコ・ギターを入れたりとかね。そういうのは、単なる個人の趣味ではあるけれども、楽しみだった。私の場合、何でも楽しみを見つけようとすると見つかる、というか、見つけるのがうまいのかもしれない。
それができるのは、どう考えても自分がかわいいからですね。自分をかわいがるということは、どんなつまらない仕事でも、楽しみを見つけるということにつながる、と思うわけです。だって、嫌でもやらなくちゃいけない、という場合が出てくるわけでしょう、会社勤めしていればね。

酒井 私は、とにかく会議が苦手でした。

逢坂 私も会議になると、あまり発言した覚えがない。先輩に「君は一時間の会議で一度も発言しなかったね」なんて嫌みを言われたこともあります。

酒井 意外です。

逢坂 自分に、あまり興味のない会議だったのかもしれないな、概してそうなんだけど。そもそも、あまり会議やったという記憶が、ないんだよね。

酒井 私も会議であまり発言するタイプではなかったので、いつも眠くなっちゃって、太ももを安全ピンで刺して覚醒しようとしていました。

逢坂 血だらけになったりして(笑)

酒井 寝ないようにコーヒーをいっぱい飲んでたら、口に入れた瞬間に寝ちゃったこともありました。

逢坂 えっ!

酒井 それで全身が弛緩して、口からコーヒーがばーっと滝のように。

逢坂 こりゃ、だめだ(笑)

酒井 たまたま膝に置いていた資料の上に、コーヒーが落ちた音が響きまして。

逢坂 器用だねえ、しかし。そんなことできるのかね、飲みながら寝るって。

酒井 自分でもびっくりして一気に目が覚めました。みんなもどうしていいか分からなかったのかスルーしてくださって、何事もなかったかのように、会議は続いていました。

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逢坂剛

おうさか・ごう
1943年東京生まれ。80年「暗殺者グラナダに死す」で第19回オール讀物推理小説新人賞を受賞。86年に刊行した『カディスの赤い星』で第96回直木賞、第40回日本推理作家協会賞、第5回日本冒険小説協会大賞をトリプル受賞。2014年、第17回日本ミステリー文学大賞、15年『平蔵狩り』で第49回吉川英治文学賞を受賞。20年、「百舌」シリーズ完結時に第61回毎日芸術賞を受賞。

酒井順子

さかい・じゅんこ
1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『女人京都』『日本エッセイ小史』など多数。

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