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心にパンクがある。それだけで最強の武器を持っている気持ちになれる——作家・せきしろが読む『いつも心にパンクを。Don’t trust under 50』

男性ファッション誌「smart」元編集長・佐藤誠二朗さんの新刊『いつも心にパンクを。Don't trust under 50』が8月26日(火)に発売になりました。

今回は著者と同世代、かつハードコアパンクを愛し続ける作家・せきしろさんの書評をお届けします。

初対面でギズムのTシャツを着ていた。それだけでかなり信用できる人だ

本書の著者である佐藤誠二朗さんに初めてお会いしたのはもう10年以上前になる。初対面の佐藤さんはギズムのTシャツを着ていた。それだけでかなり信用できる人だなあと思った。「どういうこと?」と思われる人もいるだろうが、これは80年代のパンクシーンに触れてきた者同士にしかわからない感覚なのかもしれない。

私の知り合いにSCOTTISH FOLD、DEMIGLACEというハードコアバンドをやっているYamachonさんという方がいる。佐藤さん同様私より年齢がひとつ上であり、一緒に飲めば80年代パンクシーンの話になる。「あのレコードを通販した」とか「あのソノシートを持っていた」「あのライブに行った」とか、そんなことを話す。あの頃夢中になっていたことが今でも何よりも強い共通言語として存在している。

この度発売された佐藤さんの『いつも心にパンクを。Don’t trust under 50』も同様であの頃が詰まっている。

佐藤さんとは見たり聴いたりしてきたもの、触れてきたものに共通するところが多い。とはいえ、当時の1歳差は大きい。1985年で考えると、佐藤さんは高校生で私は中学生である。佐藤さんがパンクを含めた様々なカルチャーに触れまくっていた頃、私はまだパンクを知らなかった。『インディーズの襲来』『ソノシートばらまき』『好きよキャプテン』など私が後々活字で知ることにリアルタイムで接しているわけであるから私からするともはや歴史の証人であり、最高の先輩となる。

本書を読み進めていくと、出てくる単語が私に襲いかかり、記憶はさらに鮮明になっていく。私はBGMを本書に登場するバンドにした。

1985年、私が住んでいた北海道のオホーツク側の小さな町ではヘヴィメタルが流行っていた。友だちがダビングしてくれたテープを聴いたが、その音はどこか私が求めているものではなかった。だからと言って、では何を求めていたのかと言われればわからなかった。当時の私には漠然とした不満がずっとあって、それを払拭してくれるものを探していたが、結局答えに出会うことはなく卒業した。

本の内容に関連する著者の貴重な私物フォトも多数掲載。著者が初めてパンクロックに触れたザ・スターリンの『虫』と、ギズムの『ディテステーション』。(写真は本書より)
本の内容に関連する著者の貴重な私物フォトも多数掲載。著者が初めてパンクロックに触れたザ・スターリンの『虫』と、ギズムの『ディテステーション』。(写真は本書より)

本書を読みながらBGMを本に登場するバンドにした

中学を出て、大きな町(と言っても北海道の片隅であるからたいしたことはないのだが)にある高校に入学した。その町には書店が何軒かあった。初めて見る雑誌が並んでいて、私にとっては大きな存在だった。放課後はそこでカルチャーに触れていった。『DOLL』や『フールズメイト』『宝島』を知り、すぐにパンクを知った。写真で見るパンクは私を高揚させ、様々な想像をした。

町には貸レコード店というものがあって、そこに「自主制作レコードコーナー」なるものがあった。コーナーと言ってもほんの一角でレコードが20枚もなかったと記憶しているが、私がパンクのレコードを手にするにはそれで十分だった。不穏なジャケットたちは私を刺激し続けた。借りてはテープに録音して、返してまた別のレコードを借りて、を繰り返した。

私はもっといろいろと聴きたくなって、通販するようになった。雑誌に掲載されているレコード店の広告を見て、すべてを買うことはできなかったので吟味に吟味を重ね、パンク、ハードコア、ポジパン、メタルコア、ノイズなど様々な音源を入手していった。

修学旅行の時に東京で自由行動があって、私は西新宿に行った。そこには今まで広告でしか見たことのないジャケットがズラリと並んでいて「本物だ!」興奮したのを覚えている。西新宿のレコード店を一通り回って、新宿ロフトの前まで行った。今でいう聖地巡礼のようなもので、厳かな気持ちにすらなった。たしかその日は『人生』のライブがあって、その文字を見ただけで私は興奮した。

そうして私は様々なバンドを聴いたが、好きなバンドを挙げろと言われたならガーゼである。私の人生の随所でガーゼが影響してきた。私が通っていた高校には「強行遠足」なるものがあり、簡単に説明すると約72kmのマラソンである。もちろん走り続ける必要はなく途中歩いても良いが各関門に制限時間があるので基本走ることになる。私は地元の国道沿いのホームセンターで買ったどこのメーカーかもわからないカセットプレーヤーを持ち、ずっとガーゼを聴いて、「敵を作れ どんどん作れ」と口ずさみながら走ったのを覚えている。

他にも書きたいバンドがたくさんあるのだが、これは書評であって、私の思い出ばかり書くところではない。何かの機会があったら書くことにしよう。

最後になるが、YamachonさんのバンドDEMIGLACEの新譜が9月5日に発売される。それに添える言葉を書かせていただいた。

『聴かずにただ過ごすか、聴いて生きるか』

私は今日もまたパンクを聴くのである。心にはもちろんパンクがある。それだけで最強の武器を持っている気持ちになれるのだ。

せきしろ氏や著者をはじめ、当時のユース・カルチャーに大きな影響を与えた雑誌『宝島』。(写真は本書より)
せきしろ氏や著者をはじめ、当時のユース・カルチャーに大きな影響を与えた雑誌『宝島』。(写真は本書より)

絶賛発売中!

1980年代に熱狂を生んだブームを牽引し、還暦をすぎた今もインディーズ活動を続けるアーティストから、ライブハウスやクラブ、メディアでシーンを支えた関係者まで、10代から約40年、パンクに大いなる影響を受けてきた、元「smart」編集長である著者が徹底取材。日本のパンク・インディーズ史と、なぜ彼らが今もステージに立ち続けることができるのかを問うカルチャー・ノンフィクション。
本論をさらに面白く深く解読するための全11のコラムも収録。

書籍の詳細と購入はこちらから。電子版も配信中です!

佐藤誠二郎『いつも心にパンクを。』刊行特集一覧

【第一章試し読み その1】有頂天KERA、the原爆オナニーズTAYLOW……還暦すぎてもインディーズなふたりのパンク哲学とは?

【第一章試し読み その2】ラフィンノーズ・チャーミーの死生観。「『好きなことやって、俺、楽しかったから、オールOK』で死んでいきたい」

【第一章試し読み その3】ザ・スタークラブのHIKAGEとニューロティカのATUSHI。少しキャラ違いのふたりが歩む40年以上のパンク道

【書評 その1】作家・せきしろ書評「心にパンクがある。それだけで最強の武器を持っている気持ちになれる」

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新刊紹介

せきしろ

せきしろ●1970年北海道生まれ。主な著書に、映像化された『去年ルノアールで』や、映画化された『海辺の週刊大衆』、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(共に双葉社)など。また、又吉直樹氏との共著『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)も。
ツイッターhttps://twitter.com/sekishiro

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