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ザ・スタークラブのHIKAGEとニューロティカのATUSHI。少しキャラの異なるふたりが歩む40年以上のパンク道【佐藤誠二朗『いつも心にパンクを。』試し読み 第一章その3】

男性ファッション誌「smart」元編集長・佐藤誠二朗さんの新刊『いつも心にパンクを。Don't trust under 50』が8月26日(火)に発売になりました。
今回は書籍の試し読み企画として、「第一章 還暦超えてもインディーズ」の一部を抜粋、全3回に分けてお送りします。
最終回の3回目は、まさに日本パンクシーン最重鎮であるザ・スタークラブのHIKAGEと、パンクと街のお菓子屋さんの二刀流で活躍するニューロティカ〝あっちゃん〟のストーリーです。(文中敬称略。一部、ウェブ用に表記など調整しています)

(全3回の3回目 #1 #2 #3

パンクシーンの最重鎮・HIKAGE

ザ・スタークラブのボーカリスト・HIKAGEは、無骨で漢気がありながらも、懐が深くてとても穏やかな人物だ。2023年8月29日におこなった今回のインタビューでも、淡々とした語り口で、飾らず、隠さず、時にネガティブな話も率直に語った。これも、HIKAGE流の〝パンク〟なのだと僕は理解した。そのひとつひとつの言葉が、重みをもって心に残る。

1977年の始動以来、ザ・スタークラブは一度たりとも止まることなく、音源を出し続け、ツアーを続けてきた。オリジナルアルバムは35枚、シングルを含めれば50枚以上。なぜそこまで続けられるのかと尋ねると、HIKAGEは「慣れ」「つくるのが好きだから」とあっさり答えるが、曲づくりには常に葛藤があると明かした。

「曲はいつも、つくり出してから後悔するんです。最初に自分の頭のなかにある時点で、ある意味、完成形だから。100点満点で、オリコンの1位が取れるレベルなんです(笑)。だけどそれを実際につくっていくと、どんどん点数が下がっていく。最初のイメージとずれてくることもあるし、技術的にできる範囲もあるからね。自分の歌もそうなんだけど、楽器は他人がやっているから、どうしても思い通りにはいかない。それで、リリースする時点では『出したくないな……』と思うほど後悔しています(笑)。
でも、だからまたできるんですよ。絶対に満足できないから。100点満点のまま完成しちゃったら、そこで終わりなのかもしれない」

ライブについて話を向けると、HIKAGEは「体力勝負だ」と即答。とはいえ、それも決して苦ではないらしい。

「ライブは反復運動みたいなものなんで、常にやっている限りは続けられる。だから、もし1年も休んだらそのほうがヤバいと思います。ただ、良いライブをやったあとは、まったく体力が減っていないんです。演奏がダメだった日は、無駄な力をすごく使っているので、疲れ切っているということはありますね」

長い活動歴を持つザ・スタークラブのライブには、僕よりもさらに年上のファンが今も多く足を運んでいる。フロアの最前線で激しくモッシュし、ダイブする姿も珍しくない。そう伝えると、HIKAGEはやや苦笑しながらも、真剣な眼差しを見せた。

「自分もいい歳なんで、ファンが歳を取っていることに違和感はありません。でもダイビングとかは、『大丈夫かよ?』って思うんですよ。ライブハウスだから、警備の人がたくさんいる状況ではないし、気持ちはわかるけど『なんでそんなに無理するんだ』と心配になります。ファンのことなんてまったく気にしてないバンドもいるとは思うんだけど、俺は距離を取りながらもファンのことはいつも気にしてるから」

その言葉からは、長年ファンと向き合ってきた男の、独自の距離感と誠意がにじむ。僕が「HIKAGEさんのやり方で、ファンを大事にしてるのが伝わってきます」と返すと、彼は力を抜いた口調で言葉を重ねた。

「今のスタークラブがあるのは、良くも悪くもファンのおかげなんでね。パンクスなんて、社会に適合しない人もいっぱいいるけど、そういうファンも俺は否定しない。ある意味、そういうファンのせいで、スタークラブには怖いイメージがついているということもあるんだけど、逆にそのイメージのおかげで、俺たちはまだやれているということもすごく感じるんです」

HIKAGEはここ10年ぐらいずっと、まわりの仲がいいボーカリストたちと、〝親父〟と呼ばれる世代が楽しめる場所をつくれないかという話をしているのだという。

「ただライブをやるだけでは、ファンはいずれ来たくても来れなくなるから、もっと楽しめるようにつくり上げなきゃダメだと思うんですけど、これがなかなか難しいんですよ。例えば、ただのライブだけじゃなくてクラブ形式でやったり、いろいろな遊びの要素があったほうが来やすくなるんじゃないかとか。
突発的なイベントでそういうのをやるんじゃなくて、月に2~3回とか定期的にあると、その人たちの居場所になるでしょ。客も体力勝負を強いられるライブだけではなく、いろんな形でパンクやロックの世界にいられるようにできれば、いくつになっても足を向けやすいんじゃないかなと思ったりするんですよ」

良いことばかりでなく、葛藤や迷いも包み隠さず語るHIKAGE。冗談めかして「俺はリーダー向きじゃないんだ」「(遠藤)ミチロウさんが生きてくれてたら」などと口にすることもあったが、その姿はジャパニーズ・パンクシーンの最重鎮そのものだ。

それでも生き延び、今日もまたどこかの街で歌っているHIKAGEは、みずからが最前線に立ち続けてきたからこそ感じる孤独や責任と、どう折り合いをつけるかを今も探しているのかもしれない。

ザ・スタークラブは、2025年4月12日に6曲入りマキシシングル『NIGHT DRIVE』をリリース。全国ツアーや特別公演など、精力的な活動を展開している。

(※編集部追記/2025年7月、HIKAGEさんが交通事故に遭い療養中と発表がありました。そのため、8月21日現在は公演中止や延期などとなっています。一日も早い復帰をお祈り申し上げます)

(撮影/木村琢也)※書籍掲載写真より
(撮影/木村琢也)※書籍掲載写真より
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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『オフィシャル・サブカル・ハンドブック』『日本懐かしスニーカー大全』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

ツイッター@satoseijiro

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