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発明家・藤原麻里菜さんが『言わなければよかったのに日記』を読んで出会った「後悔から自由になる」言葉

発明家・藤原麻里菜さんが『言わなければよかったのに日記』を読んで出会った「後悔から自由になる」言葉

失敗を面白さに変える言葉に救われる

さて、今回のテーマであるしんどい時も、救いをくれるのは言葉です。
深沢七郎の『言わなければよかったのに日記』には、しんどい時、行き詰まった時に、いつも助けられています。

この本は、「言わなきゃよかった」「やらなければよかった」というシチュエーションを飄々と綴っているエッセイです。
『楢山節考』で文壇デビューを果たしたばかりの著者が、大尊敬する小説家の正宗白鳥に「先生は酒の……、菊正宗の……?」と聞いたところ、すかさず「そんな家とは何の関係もない」と返ってきて、ああ、こんなこと言わなければよかった! と大後悔――
そんな恥ずかしい自分の失敗談を、カメラで客観的に捉えるように、淡々と真剣な口調で語っているのが面白くて笑えます。

私も「あんなこと言わなければよかった」とか「あの日あんなことしなければよかった」と思うことがよくあります。たとえば、コロナ前は、後輩と飲みに出かけて、延々と説教じみたトークをしてしまい、翌日「ああ、なんであんなこと言っちゃったんだ〜!」と頭を抱えることもよくありました。
でも『言わなければよかったのに日記』には自分の経験を超える恥ずかしいエピソードが出てくるので、読む度に「こういう思いをしているのは自分だけじゃないんだ。よかった」と安心できるし、自分に対して寛容になれる気がします。

この本の中には、恥とか後悔とか、自分の心の中で人生の失敗として残っていた出来事や感情を「面白さ」に変えてくれる言葉が詰まっています。その言葉に触れるたびに、面白さのストライクゾーンが広がる気がするのです。

深沢七郎著『言わなければよかったのに日記』中央公論社(撮影/藤原麻里菜)
深沢七郎著『言わなければよかったのに日記』中央公論社(撮影/藤原麻里菜)
「しんどい時によみタイ」特集連載一覧
●第1回 「心にお水をあげている感覚に」川村エミコさんを救った茶道エッセイ
●第2回 人気エッセイストのスズキナオさんが弱った時に読む2冊「人間は筒のようなものだという気持ちを取り戻させてくれる本」
●第3回 ノンフィクション作家・菅野久美子さんが選ぶ「90年代、壊れそうな少女だった私に寄り添ってくれた本」
●第4回 「『ハチミツとクローバー』は残酷だから安心できる」。読書猿さんが救われた傑作漫画3選
●第5回 新しい味の伝道師・稲田俊輔さんが選ぶ、食エッセイの不朽の名作、池波正太郎『むかしの味』
●第6回 直木賞作家・朝井リョウさんが、しんどさに襲われた時『ちいかわ』と『不寛容論』を読む理由
●第7回 ベストセラー作家・橘玲さんが『となりの億万長者』を読んで悟った「真の自由」を手に入れる方法
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藤原麻里菜

ふじわら・まりな●発明家、映像クリエイター、作家
1993年、横浜生まれ。
頭の中に浮かんだ不必要な物を何とかつくりあげる「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコンテンツを広げている。SNSの総フォロワー数は20万人を超え、動画再生数は4000万回を突破、その人気は中国、アメリカ、ヨーロッパなど海外にも広がっている。2016年、Google主催「YouTube NextUp」に入賞。2018年、国外での初個展「無用發明展——無中生有的沒有用部屋in台北」を開催、2万5000人以上の来場者を記録した。eAT2018 in KANAZAWA、アドテック2016東京・関西などで登壇。「総務省 異能vation 破壊的な挑戦者部門 2019年度」採択。
Twitter @togenkyoo
YouTube 無駄づくり / MUDAzukuri」

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