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新しい味の伝道師・稲田俊輔さんが選ぶ、食エッセイの不朽の名作、池波正太郎『むかしの味』

新しい味の伝道師・稲田俊輔さんが選ぶ、食エッセイの不朽の名作、池波正太郎『むかしの味』

各界の読書家が「心が救われた本」を語る特集企画「しんどい時によみタイ  私を救った1冊」。

前回は、『独学大全』などで知られる作家で人気ブロガーの読書猿さんが、落ち込んだ時に繰り返し読む漫画3冊をご紹介くださいました。

今回は、南インド料理など食の新しい潮流を生み出し続ける料理人・飲食店プロデューサーの稲田俊輔さんの愛読書をご紹介します。

池波正太郎が愛した「むかしの味」

 食について書かれた本を読むのが昔から好きでした。子供の頃読んだ本に出てくる食べ物は、自分があまり食べたことのない、あるいはよく知らないものばかり。いったいどんな味でどんなおいしさなんだろう、と想像力を巡らすばかりでしたが、成長するに従ってそこには知っている食べ物が増えていき、わかるわかると共感しながら読むことも増えていきました。
 そんな中で出会った、池波正太郎『むかしの味』は、少し不思議な感覚の本でした。僕がこの本に出会ったのは二十代後半でしたが、その時点で本の発刊である昭和五十九年からは十年以上が経過していました。そしてこの本はその著された時点から更に「むかしの」味を懐かしんで書かれたものです。
 本に登場する食べ物はカツレツやカレーライスなどの洋食、蕎麦、鰻、焼売、などなど。自分もよく知っている食べ物ばかりです。しかし特徴的なのは、それらについて語る全てにおいて、基本的に「今より昔の方が良かった」「昔の味をそのまま保っているのが良い店だ」というスタンスが貫かれているのです。
 と、これだけ書くと「なんて嫌な本だろう」と思う人ももしかしたらいるかもしれません。いわばひたすら懐古主義的な老人の繰り言。令和の今なら「老害」という容赦ない言葉で揶揄されかねません。
 しかし(実際読んでいただくとなんとなくわかると思うのですが)この点において著者は「確信犯」です。ある種のヒールを演じることで後世に何かを伝えたかったのだと思います。

池波正太郎『むかしの味』(新潮文庫刊)
池波正太郎『むかしの味』(新潮文庫刊)
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稲田俊輔

イナダシュンスケ
料理人・飲食店プロデューサー。鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。
和食、ビストロ、インド料理など、幅広いジャンルの飲食店25店舗(海外はベトナムにも出店)の展開に尽力する。
2011年には、東京駅八重洲地下街にカウンター席主体の南インド料理店「エリックサウス」を開店。
Twitter(@inadashunsuke)などで情報を発信し、「サイゼリヤ100%☆活用術」なども話題に。
著書に『おいしいもので できている』(リトルモア)、『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』(扶桑社新書)、『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分!本格インドカレー』、『だいたい1ステップか2ステップ!なのに本格インドカレー』(ともに柴田書店)がある。

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