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スマホで注文・配達で誰にも会わずにアルコール漬けの日々

 Cさんは妻という最愛のパートナーがいなくなったことで生きるかてをなくしてしまいました。妻が早く亡くなると、夫も早く亡くなるケースが多いことはよく知られています。
 
 単身高齢者のアルコール問題は、食事をせずに酒ばかり飲んでしまう傾向にあるので、体調を崩しやすく、子どもがいても別に暮らしている場合、誰にも気づかれず、自分で助けを求めることもできず、孤独死に至るケースも多いです。単身男性のアルコール依存症者は、妻のいるアルコール依存症の人に比べて寿命が短い例が多く見受けられます。
 
 アルコール飲料をずっと飲み続けていると、さまざまな身体疾患を患います。妻がいたら食事を作ったり、お酒を捨てたり、世話を焼いてくれるし、いざというときに救急車を呼ぶこともできます。依存症が悪化する前に、内科病院や専門病院など、適切な医療機関につながることで助かる可能性が高いです。妻のケアによって結果的に寿命が延びるアルコール依存症の高齢男性は少なくありません。
 
 Cさんは幸いにも娘さんに発見されて、命拾いをすることができましたが、日本のアルコール依存症の人たちの中で専門医療機関につながっている人はいまだに全体の5~10%と言われており、非常に少ない状況です。

病院で点滴→多量飲酒のループ

 そのほかのほとんどの人たちは内科で入退院を繰り返し、結局は死に至るケースもあります。
 小田嶋隆さんの著書『上を向いてアルコール 「元アル中」コラムニストの告白(ミシマ社 2018)に、何年にもわたって近所の病院で点滴を打っていたのに、誰にもアルコール依存症だなんて言われなかった、というエピソードがありました。点滴で解毒して、飲める体になって戻ってくると、また飲み始める。延々とそれを繰り返す人もいるのです。
 
 この問題は最近ようやく認知されるようになり、専門医療機関へ行くことを勧める内科の医師や、専門治療することを内科治療の条件とする病院も増えてきました。
 
 高齢男性の酒量が増えるきっかけは、Cさんのようにパートナーの死が一番大きい要因ですが、逆に女性の場合、夫の死がきっかけで飲酒量が増えるということは、あまりないようです。夫が亡くなっても、それほど喪失感を抱かず、むしろ生き生きとするという話はよく聞きます。夫よりもペットが死んだときのほうが喪失感は大きい。そして、子どもが巣立っていって、今までの母としての存在価値や役割を見失ったときにアルコールに耽溺たんできするというケースはあります。

(編集協力:西野風代)

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斉藤章佳

さいとう・あきよし
精神保健福祉士・社会福祉士。大森榎本クリニック精神保健福祉部長。
1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、アルコール依存症を中心にギャンブル、薬物、摂食障害、性犯罪、児童虐待、DV、クレプトマニアなどあらゆるアディクション問題に携わる。その後、2016年から現職。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践、研究、啓発活動を行っている。また、小中学校での薬物乱用防止教室、大学や専門学校では早期の依存症教育にも積極的に取り組んでおり、全国での講演も含めその活動は幅広く、マスコミでもたびたび取り上げられている。著書に『性依存症の治療』『性依存症のリアル』『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』『「小児性愛」という病——それは、愛ではない』がある。

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