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スマホで注文・配達で誰にも会わずにアルコール漬けの日々

妻との死別、離別などの喪失体験

 Cさんのように死別でなくても、熟年離婚も喪失体験の一つです。特に妻から離婚を切り出された場合は、ことさら強い喪失感を抱きます。それまで仕事一筋で頑張ってきて、これから妻とともに家でゆっくり過ごせると思っていたところで、はしごを外されたような気持ちになるのでしょう。
 
 さらに身体機能の喪失もあります。歳を取ると、体力や筋肉量、性機能が落ちてきます。いろいろな意味で男性がパワーを確認するための身体機能が落ちるという喪失感から、自信を失っていきます。
 
 また、友人が亡くなっていく寂しさもあります。65歳ぐらいになると、病気になる人も増えてきますし、同窓会に行くと、「誰々が死んだ」という話が頻繁に出てきます。
 
 こうした経験を重ねていくことが避けられなくなっていったとき、喪失感を酒で埋めるという行為において、安く酔えるストロング缶の存在は大きいと思います。
 
 アルコール依存症者の脳は長年の飲酒習慣によって萎縮します。お酒はビタミンB1(チアミン)の吸収を妨げるので、ウェルニッケ脳症やコルサコフ症候群(記憶障害・見当識障害・作話)と呼ばれる、認知症に似た症状が出てくることもあります。
 
 毎日お酒を飲む人の適量は一日あたり日本酒換算で1合以下です。ビールなら500㎖缶1本、ウィスキーならダブル1杯(60㎖)、焼酎はグラス1/2(100㎖)、ワインはグラス2杯弱(200㎖)、缶チューハイ(AL7%)は1本(350㎖)です。毎日飲む人は、適正飲酒を続けるならばそれだけにしておかないといけません。
 
 毎日20g以上の純アルコールを摂取してきた中年男性は、老後の物忘れの進行が最大で6年早まるという研究結果が、2014年、米国神経学会の学会誌『ニューロロジー』に発表されました。論文を執筆したロンドン大学のS・サビア氏は「中年男性を対象にした我々の研究は、飲酒量と認知機能の衰えが進むスピードとの間の相関関係を示唆している」と述べていました。

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斉藤章佳

さいとう・あきよし
精神保健福祉士・社会福祉士。大森榎本クリニック精神保健福祉部長。
1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、アルコール依存症を中心にギャンブル、薬物、摂食障害、性犯罪、児童虐待、DV、クレプトマニアなどあらゆるアディクション問題に携わる。その後、2016年から現職。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践、研究、啓発活動を行っている。また、小中学校での薬物乱用防止教室、大学や専門学校では早期の依存症教育にも積極的に取り組んでおり、全国での講演も含めその活動は幅広く、マスコミでもたびたび取り上げられている。著書に『性依存症の治療』『性依存症のリアル』『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』『「小児性愛」という病——それは、愛ではない』がある。

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