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地方出身女子がハマったマッチングアプリ詐欺とストロング系チューハイの罠

  アルコール依存症のきっかけとなるエピソードに別の要因(疾患)がある人もいます。根っこに、自閉スペクトラム症などの発達障害的傾向を持っているケースもその一つです。診断はつかないけれども「発達障害グレーゾーン」と言われる人もこの疾患概念の広がりとともに目立ってきました。

 空気が読めない、話がかみ合わない、忘れ物が多い、他者への共感性が乏しい、こだわりが強い、などの発達障害的傾向がある人は、学生時代までは親や教員などのサポートによりある程度適応できるものの、卒業後社会に出て、例えば結婚による他者との生活の中や継続した就労活動の枠組みの中で、徐々に不適応が起きてくるケースがあります。

 もともと発達障害を持つ人は、枠組みの中に自分を当てはめることが苦手な場合があり、周囲の人と働く時間軸を合わせられないというズレや、職場での人間関係のトラブルが出てきて、それを障害ではなく、性格や能力の問題ととらえられて?責されることも多いのです。
 すると、職場ではストレスがたまり、日々自己肯定感が削られるので、その生きづらさを紛らわすために家に帰って一人で酒を飲む、というパターンに陥ることがあります。このような、二次障害としてのアルコール問題が存在します。飲酒が自分の不全感やストレスに対処するための自己治療とも言えるので、より一層悪循環になりやすいのです。

「コミュ障」なタイプのDさん

 Dさんの印象としては、おとなしくて、声も小さく、自信のなさそうな感じの女性です。会って話しても、まさかこの人がそんなにお酒を飲んでいるなんて、思いもよらないでしょう。

 なぜ、もともと酒好きでも何でもない彼女が酒に溺れていったかというと、「つながりがない」「依存先がない」ことが一番の原因と言えるでしょう。地元から離れ東京に出てきて一人暮らしで、親しい友人もできず、仕事関連でのつながりもなかったため、あっという間に孤立してしまったのです。
 若い女性の場合、さびしさから出会いを求めて、不特定多数の相手との性関係を持つというケースもありますが、彼女の場合は自分に自信がなかったため、そのような行動を取ることはありませんでした。しかも、婚活で出会った男性に騙されてしまったので、それ以上、男性と関係を持つことが怖くなってしまったのです。

 地元では比較的裕福な家庭で大事に育てられ、発達障害的傾向が、それほど大きな問題になることはありませんでした。Dさんのケースは原家族や育てられ方に機能不全の問題があったわけではなく、どちらかといえば過保護・過干渉でした。

 最近はこのような「カーリング子育て」と言われる親子関係をあちこちで見ることがあります。本人が悩んだり痛みを感じることで大切な何かを学ぶ権利を周囲が巧妙に奪う構造を、全国で性教育の講演を行っている医師の岩室紳也氏(ヘルスプロモーション推進センター代表)は「カーリング子育て」と名付けました。
 ストーンが円滑に滑るよう周りの人たちが必死に氷面を磨くカーリングのように、本人が転ばないように、先回りして障害物を取り除いて大事に大事に育てられたため、生来の発達障害的傾向も、親の庇護下にあるうちは顕在化しなかったのでしょう。そこで育まれた優等生的な気質から、他人を巻き込むセックス依存でも、万引きを繰り返すクレプトマニア(窃盗症)でもなく、消去法で道徳や倫理上の抵抗感の少ない、一人で飲めるお酒を選んだのだと思います。

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新刊紹介

斉藤章佳

さいとう・あきよし
精神保健福祉士・社会福祉士。大森榎本クリニック精神保健福祉部長。
1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、アルコール依存症を中心にギャンブル、薬物、摂食障害、性犯罪、児童虐待、DV、クレプトマニアなどあらゆるアディクション問題に携わる。その後、2016年から現職。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践、研究、啓発活動を行っている。また、小中学校での薬物乱用防止教室、大学や専門学校では早期の依存症教育にも積極的に取り組んでおり、全国での講演も含めその活動は幅広く、マスコミでもたびたび取り上げられている。著書に『性依存症の治療』『性依存症のリアル』『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』『「小児性愛」という病——それは、愛ではない』がある。

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