2022.3.15
【佐藤賢一緊急特別寄稿】世界史から見るウクライナ情勢「ウクライナは引かない ロシアが引くしかない」
クリミア自治共和国でのロシア編入の住民投票
そのロシア人たちだが、ウクライナが独立国となっても、そこを動かなかった。無理に動かすわけにもいかない。ロシア人は出て行け、家も土地も財産もあきらめて、ロシアに移れというならば、それこそ国家の横暴だ。このロシア人たちとて、ウクライナの国民であり、市民なのだ。主権在民の原則に照らすなら、このロシア人たちの考えが、無視されてよいわけではない。
そこで問われたのが、ウクライナのEU加盟、NATO加盟の動きである。このロシア人たちとて、ウクライナに属する市民として、これぞウクライナ発展の道と認めて、賛成することも考えられる。が、やはりロシア人として、同じロシア人の国であるロシアとともに歩みたいと、そう考える人がいても不思議ではない。それが許されないのなら、ウクライナ人であることを止めたい。自分たちが住んでいる土地ごと、ロシアに移りたい。そう主張を進めることとて、ありえない話ではない。
難しい問題だという所以だが、実際の経過を追うなら、マイダン革命またはユーロマイダン騒乱から程ない二〇一四年の三月十六日、クリミア自治共和国で、そのロシア編入の賛否を問う住民投票が行われた。住民が自発的に行ったのか、すでに背後でロシア政府が動いていたのか、いずれとも定かでないが、結果をいえば九六・七七パーセントの圧倒的な多数で編入賛成だった。
これを受けてロシア政府は十八日、クリミア自治共和国の編入を宣言した。ウクライナ政府は住民投票を違法とし、投票結果についても公正でないとした。国連もクリミアの住民投票を無効とする決議を採択した。他方のロシアはといえば、投票結果は住民の意思であり、自分たちの強制ではないとして、さらに実力行使で併合に踏みきっている。
ほぼ同時に、ドネツク、ルハンスクの東部二州もロシア併合を目指して、それぞれ自治共和国としての独立を宣言した。ウクライナ政府は鎮圧の軍を送りこんだが、二州も独自の軍で抗戦、たちまち戦闘状態になる。これをロシアは内乱と呼んだわけだが、二州が簡単に自前の軍を持てるわけがない。ロシアが武器弾薬を供与した、のみならずロシア軍の兵士が投入された、というよりロシア軍が自治共和国軍を名乗っているだけだと、ウクライナのほうではロシアとの戦争と呼ぶことになる。
いずれにせよ、二州の自治共和国は抵抗を続けた。相当程度の地域を占領して、その実効支配を二〇一四年からだから、もう八年も続けている。これをウクライナ軍は、無理にも蹴散らそうとするかもしれない、早く独立を承認して、それを保護してやらなければならないと、こたびロシア政府が侵攻開始の名分とした運びは、周知の通りである。