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【佐藤賢一緊急特別寄稿】世界史から見るウクライナ情勢「ウクライナは引かない ロシアが引くしかない」

西洋歴史小説の第一人者、直木賞作家の佐藤賢一氏。
フィクション、ノンフィクションともに、蓄積された知識を駆使した力作を発表し続けている。
好評既刊『よくわかる一神教』で、ウクライナ問題について触れた氏が、緊迫するロシアとウクライナの情勢について、歴史的宗教的観点から考察する。
必読の特別寄稿。

戦いは、2014年に始まっていた

ウクライナ軍の兵士たち。©Pacific Press/Getty Images
ウクライナ軍の兵士たち。©Pacific Press/Getty Images

 ロシア軍がウクライナに侵攻した。が、ウクライナの抗戦は激しく、ロシア大統領プーチンが最初に意図したような展開にはなっていない。
 それは今に始まる話ではない。
 二〇一四年、ウクライナのクリミア自治共和国がロシアに併合された。またドネツク、ルハンスク(ロシア語ではルガンスク)の東部二州が、ロシアに併合されることを前提に独立を宣言した。これを阻むためにウクライナ軍は出動し、逆に既成事実を守らんと、ロシア軍も国境を越えた。このときで、もう戦いは始まっていたのだ。
 難しい問題といわなければならない。
 始まりは先だつ二〇一三年にウクライナで起きた政変である。ソビエト連邦の崩壊を受けて、独立国となった一九九一年このかた、ウクライナは政治的混乱と深刻な経済危機に見舞われた。苦境を脱する方策として浮上したのが、EU加盟、さらにNATO加盟だった。二〇一三年十一月、ウクライナ政府はEUとの経済連携協定に合意することになった。が、当時のヤヌコーヴィチ大統領は土壇場で協定への署名を拒否し、親欧米の反対側、すなわち親ロシアに舵を戻したのだ。
 それを裏切りとして、ウクライナ国民は激怒した。十一月二十一日夜、首都キエフで市民による抗議デモが起こる。これをきっかけにウクライナでは翌年まで反対運動が続いた。人々が最初に集結したのがキエフの「ユーロマイダン(ヨーロッパ広場)」だったことから「マイダン革命」、あるいは「ユーロマイダン騒乱」と呼ばれる事件である。

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佐藤賢一

1968年山形県鶴岡市生まれ。山形大学教育学部卒業。東北大学大学院文学研究科フランス文学専攻博士課程単位取得満期退学。
1993年『ジャガーになった男』で第6回小説すばる新人賞受賞。99年『王妃の離婚』(集英社)で第121回直木賞受賞。2014年『小説フランス革命』(集英社)で第68回毎日出版文化賞特別賞受賞。2020年『ナポレオン』(集英社)で第24回司馬遼太郎賞受賞。主にヨーロッパ史を題材とした歴史小説を多く手掛けているが、近年は日本、アメリカを舞台とした作品も発表し舞台化されたりなど話題となる。日本語のみならず、フランス語などの外国語文献にもあたり蓄積した膨大な歴史的知識がベースの小説、ノンフィクションともに評価が高い。
著書に下記などがある。
<小説>
『傭兵ピエール』『双頭の鷲』『カルチェ・ラタン』『オクシタニア』『黒い悪魔』『褐色の文豪』『ハンニバル戦争』『ナポレオン』『女信長』『新徴組』『日蓮』『最終飛行』ほか。
<ノンフィクション>
『英仏百年戦争』『カペー朝』『テンプル騎士団』『ドゥ・ゴール』『ブルボン朝』ほか。
<漫画原作>
『傭兵ピエール』『かの名はポンパドール』

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