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「TOEIC満点でも本当の英語はしゃべれない」と言われるのはなぜか? 英語ネイティブが不自然な英語に極めて不寛容な理由【大野和基『懐に入る英語』試し読み】

アメリカ社会についての知識や肌感覚が必要

今私が重点的に取り組んでいるのは世界の知識人へのインタビューであるが、そういう知識人へのインタビューで使う英語とピアーズや陪審員など一般人に対して使う英語は丁寧さの点から表現も語彙も異なる。また特に一般人はゆっくり話すことを知らない。彼らが話す英語に対してこちらが注文をつけることはできない。なぜなら相手の胸襟を開いてもらうときには相手が最も心地よいと感じるスピードで話してもらわないといけないからだ。さらにピアーズの場合南部訛りがあるので、それに対して標準語で話してほしいという要求もできない。

取材は承諾をもらった時点で90パーセント達成したことになると私は思っているが、それほど取材の承諾を取るのが難しいケースが多い。いわゆる報道合戦(media circus)と言われるような、世界中のメディアが殺到するような大事件となるとなおさらだ。ロドニー・キング事件がまさにそうであった。もちろん英語で説得しなければならないが、そういうときに必要な知識は例えば銃に対するアメリカ人の意識、陪審員制度に関する深い知識、not guiltyの意味(「有罪ではない」の意で、「罪がない」と言っているわけではない)など、アメリカ社会についての知識や肌感覚が必要になってくる。それは相手が日本人のものの考え方をまったく知らないので、説得するときに日本人のものの見方との違いを説明しなければならないからだ。言葉と文化・社会が切り離せないことは言うまでもないが、英語を学ぶときに背景知識やネイティブに近い感覚も身につけなければならない。日本人の感覚で説得しようとすると相手は拒否反応を起こすからだ。

2008年、ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン(写真左)とは何度も取材する仲だ。(写真:著者提供)
2008年、ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン(写真左)とは何度も取材する仲だ。(写真:著者提供)

英語ネイティブは不自然な英語に対して極めて不寛容

日本人は、外国人が少々不自然な日本語を使っても寛容である。また翻訳文化に慣れているので、少々翻訳くさい日本語に対しても極めて寛容である。しかし、日本に長く住んで日本語の発想を知っている、英語ネイティブはそうではないが、日本語の発想をまったく知らない英語ネイティブは、前述したように不自然な英語に対して極めて不寛容であることを念頭に置いておかなければならない。

ベテラン翻訳家の柴田元幸は、著書『ぼくは翻訳についてこう考えています 柴田元幸の意見100』(アルク)の中で<原文に対するリスペクトは欧米の翻訳者よりも日本の翻訳者の方が強いです。だから、英語の原文には忠実だけど日本語としては不自然というケースがどうしても多くなる。>さらに<欧米では「翻訳のように見えない」というのが翻訳の理想なんです。>と書いている。日本語から直訳したような英語では、相手に理解してもらえないことが多いのだ。

繰り返すが、アメリカ人が日本人が話す英語についてよく指摘するのは、ぶっきらぼうであるということである。例えば“Would you like something to drink?”と機内で言われたときに、“I’d like to have Coke.”と文で言うと丁寧になるが、日本人は“Coke, please.”と単語だけで言うことが多い。
アメリカ人の子どもが単語だけで返事をしていると、母親が“Complete your sentence.”(きちんと文で言いなさい)と子どもに注意しているのを何回も目撃した。一見難しいようだが、簡単な文で言えるので、普段の心がけでできるようになる。ちなみに何も飲みたくない場合、日本人は“No, thank you.”と言う人が多いが、ネイティブは使わない。ストレートすぎて、ぶっきらぼうだからだ。よく使う表現は、“I’m fine.” (私は大丈夫です)である。“No” や“not”はできるだけ使わない方がいい。あまりにもストレートであるからだ。

例えば、相手の意見に同意しない場合、“ I do not agree with you.” ではなく、“I have a different opinion.”と言う方が洗練された言い方である。

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新刊紹介

大野和基

おおの・かずもと/国際ジャーナリスト。

1955年生まれ、兵庫県西宮市出身。大阪府立北野高校卒。
東京外国語大英米学科卒業後、1979年に渡米。コーネル大学で化学、ニューヨーク医科大学で基礎医学を学んだ後、ジャーナリストの道に進む。
​以来、国際情勢の裏側や医療問題に関するリポートを発表するとともに、世界的な要人・渦中の人物への単独インタビューを次々とものにしてきた。芸能ゴシップから国際政治経済モノまで、すべてを等距離に置くことをモットーとする。
3カ月で10万部のベストセラー『コロナ後の世界』(ジャレド・ダイアモンドほか、文春新書)、『民主主義の危機』(イアン・ブレマーほか、朝日新書)などの訳書、『つながりすぎた世界の先に』(マルクス・ガブリエル)、『お金の流れで読む 日本と世界の未来』(ジム・ロジャーズ、ともにPHP新書)、『オードリー・タンが語るデジタル民主主義』 (NHK出版新書)などインタビュー・編著多数。
著書に『私の半分はどこから来たのか』(朝日新聞出版)、『日本人だけが知らない世界基準の「質問力」』 (祥伝社)などがある。
公式HP■https://www.kaz-ohno.com/

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