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異端の経営学者が断言「ガンガン遊んで業界に入り込め!」ビジネス・エコシステムの再考察

自身の壮絶な婚活体験がもとになった『婚活戦略』が、学術書ながら異例のヒット! いま大注目の経営学者・高橋勅徳さん初のエッセイ連載です。
高橋さんが提唱するのは、競争せず気楽に稼ぐ「そこそこ起業」。
前回は、マッチングアプリのビジネスモデルを考察しました。
今回は、ついに最終回。これまで紹介した「そこそこ起業」にも通じる「ビジネス・エコシステム」について論じます!
イラスト/德丸ゆう
イラスト/德丸ゆう

学生ベンチャーはやる気の問題じゃない!

「あなた方がいまやろうとしていることは、特攻隊を組織しようとしているのと同じです。その責任とって、最後に腹を切る覚悟ありますか?」

 5年ほど前、私は某所から「学生ベンチャーを増やすための政策について、ご意見をいただきたい」というオファーを頂き、ある会合に参加していました。過去に大学発ベンチャーやインキュベーション施設の研究論文を複数発表しており、日本ベンチャー学会で学会賞も受賞している私に、学識経験者として白羽の矢が立ち、会合に参加を求められた訳です。

 ビル・ゲイツもザッカーバーグも、在学中に起業して大成功を収めた。
 
 それに対して、我が国では全体の起業率が低いだけでなく、学生ベンチャーの数が少ない。

 起業数の母集団を大きくしないと、我が国からビル・ゲイツもザッカーバーグも生まれない!
 
 これは我が国の起業マインドが低いのが原因であり、大学教育を変えてどんどん大学生のうちに起業させるべきだ!

 主催者からこのような趣旨の報告がアジテーションを交えて行われ、会議が進められていくうちにブチブチと私の脳の血管が切れる音が聞こえた気がします。そして、企業家研究の専門家として、大学での企業家教育に関する意見を求められた時、可能な限り怒りを抑えて、冷静な口調で言ったのが冒頭の発言です。
 
 少し考えれば、彼らが無茶苦茶なことを言っていることがわかります。
 
 そもそも、起業して成功する可能性は極めて低い。センミツ(1000社起業して生き残るのは3社)という言葉がありますし、この会合がターゲットにしたIT業界だと、一昔前は5年生き残れば老舗と言われるくらい、新陳代謝が高い=起業率も廃業率も共に高い業界です。

 ましてや、社会人と比べて、経験も人脈も少ない大学生が起業しても、失敗する可能性のほうが高い。起業に際して少なからず負担せねばならない自己資金を借金で調達して、その学生は失敗した場合にどうやって返済するのか? 更に未だに我が国の中途採用市場が未成熟な状態で、新卒パスを犠牲に起業して失敗した学生を採用してくれる企業が、どれだけあるのか?

 職業経験も人脈も少ない学生が起業し失敗した場合、そのリスクは社会人経験を経て起業するより遥かに重くなります。

「学生の背負う起業リスクを議論せず、やる気の問題に還元して、教育で学生を起業に煽るのは鬼畜の所業です。当然、もしこの提案を本気でやる気なら、失敗した学生に対して責任をとるために、腹を切る覚悟がありますよね!」

 最後はドスを効かせた声で言った記憶があります。その会合に参加したメンバーは、私のその発言に黙り込んでしまいました。その後、その会合に呼ばれなくなったので、どういう結論を導いて、政策提案をしたのかを確かめられなかったことは残念でした。

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高橋勅徳

たかはし・みさのり
東京都立大学大学院経営学研究科准教授。
神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了。2002年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。博士(経営学)。
専攻は企業家研究、ソーシャル・イノベーション論。
2009年、第4回日本ベンチャー学会清成忠男賞本賞受賞。2019年、日本NPO学会 第17回日本NPO学会賞 優秀賞受賞。
自身の婚活体験を基にした著書『婚活戦略 商品化する男女と市場の力学』がSNSを中心に大きな話題となった。

Twitter @misanori0818

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