季節の野菜は、売り場で目立つ場所に置かれ、手に入れやすい価格なのもうれしいところです。
Twitter「きょうの140字ごはん」、ロングセラー『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』、文庫化された『わたしのごちそう365 レシピとよぶほどのものでもない』で、日々の献立に悩む人びとを救い続ける寿木けいさん。
食をめぐるエッセイと、簡単で美味しくできる野菜料理のレシピを、「暮らしの手帖」などの写真が好評の砺波周平さんの撮影で紹介します。
自宅でのごはん作りを手軽に楽しむヒントがここに。
2021.1.4
第19回 米に笑う

よそからやってきたくせに、東京からひとがいなくなる正月がうれしい。
今年にかぎっては、どこへも行けないひとも多いだろう。それでも、環七から車の姿が消える三が日は、街が掃き清められたように感じる。
ごちそうが続くこの時季は、1月7日でなくても粥を炊く機会が増える。胃のあたりが重く、あごの輪郭もぼんやりしてきた日には、いつもより少し早く起きておかゆをこしらえ、冷えきった台所を湯気でほぐす。おかゆには、たっぷりの青菜が欠かせない。日の光を浴びた薬草を、体が欲しがる。
根菜が多い季節に、新鮮な青菜──かぶや大根──は貴重な存在だ。葉っぱがついたまま売られているのを見つけたら、迷わず買う。家へ帰ったらすぐに葉を切り落とし、洗って刻んで、塩もみする。塩で鮮度を封じ込めてから保存容器に入れておけば、おかゆ以外にも、汁物でも玉子焼きでも、ちょっと青みが欲しいときに助かるのだ。
宮大工がピンセットで箱詰めしたような「春の七草セット 498円」をスーパーで見つけても、
「なにを」
7日を過ぎればいつもの野菜ではないか。素通りして、冷蔵庫にしまってある塩漬けを私は選ぶ。青菜はじゃんじゃん使ってこそだ。
米をやさしく洗ってざるにあげる。土鍋に移して、鍋の七分目まで水を注ぎ、塩ひとつまみを加えてから、火をつけて煮はじめる。沸騰する直前に、鍋の底にくっつきそうな米を木べらやスプーンではがし、2センチずらしてふたをして、蒸気が適度に逃げるようにしておく。あとは弱火で40分。水分が少なくなってきたら途中で湯を足せばよいと教えてくれたのは、料理家の小林カツ代さんだった。彼女の炊き方を知ってから、つきっきりで鍋を見張る必要がなくなって、楽におかゆが作れるようになった。
よい具合に煮えたら、保存容器に入れておいた大根の葉のみじん切りの水気をしっかり絞り、一面に散らす。米の粘りと湯気に肌をさらした青菜は、下茹でなしでも、アクやえぐみなどちっとも気にならない。ふたをして1分蒸らせば出来あがり。時間が経つと粘りが増すので、早く器に盛ってしまう。
焼いたよもぎ餅をのせるのも、私の好きな食べ方だ。まずはおかゆと青菜の舌触りを楽しみ、次にカリカリの餅の表面に歯を立てる。最後は粘っこい米粒が絡みついた餅の身を、ねぶるように吸う。1月7日だけの行事にするのはもったいないと書いたのは、こういうことだ。