よみタイ

寿木けい「土を編む日々」
春夏秋冬、旬の食材は、新鮮で栄養たっぷり。
季節の野菜は、売り場で目立つ場所に置かれ、手に入れやすい価格なのもうれしいところです。
Twitter「きょうの140字ごはん」、ロングセラー『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』、文庫化された『わたしのごちそう365 レシピとよぶほどのものでもない』で、日々の献立に悩む人びとを救い続ける寿木けいさん。
食をめぐるエッセイと、簡単で美味しくできる野菜料理のレシピを、「暮らしの手帖」などの写真が好評の砺波周平さんの撮影で紹介します。
自宅でのごはん作りを手軽に楽しむヒントがここに。

第18回 光の季節

 映画『時をかける少女』(大林宣彦監督・1983年)の冒頭に、こんなシーンがある。
 ある春の日の教室で、「桃栗三年、柿八年、柚子は九年でなりさがる」の続きを答えられるひとはいるか?との教師の問いかけに、原田知世演じる主人公が、
「梨のバカが十八年」
 起立して堂々と暗唱し、教室じゅうがどっと笑う。
 そらで言うことができたのは、このことわざを幼い頃から歌にのせて親しんだ記憶があり、しかもそれがとても美しい思い出だったからだ。時間は過ぎるのではなくやってくるものなのだという、物語の核になるセリフとともに、改めてこの果実の歌を思い返すと、思い出を持ち続けることの力が胸を衝く。記憶を大切に抱えて、磨き上げて、ひとは成長する。生きていく。
 時間は過ぎるものではなく、やってくるものだ。
 今日12月21日は、二十四節気の冬至である。一年でもっとも昼が短く、夜が長い日。柚子を浮かべた風呂につかって、かぼちゃを食べ、無病息災を願う。また、この日は一陽来復とも呼ばれ、闇の時代が極まり、新しい時代(春)がはじまるとされてきた。禍を転じて福となすことが、これほど求められた一年はない。

 冬本番はこれからなのに、春がくるって?──二十四節気の指標と、実際の体感の差に違和感を抱くひともいるだろう。しかし、暦と実際の季節がずれているとするのは早合点だ。
 二十四節気を「光の季節」と表現することで、暦と風土をつなげてみせてくれたのが、気象評論家の倉嶋 厚だ。
 太陽は地球の周りを黄道に沿って360度進む。この楕円の軌道を24等分し、約15度進むごとに通過点に名前をつけたのが二十四節気である。冬至の今日、太陽は270度の地点にあり、90度進めば春分となる。
 太陽高度に注目してみれば、冬至が春のはじまりであるのはもっともなことなのだ。地上の私たちに先立って、太陽は春を目指している。その光は確実に、山に、海に、野に降り注ぎ、南北に長い日本列島を順々に照らしていく。こうした暦や天文学の教養に、五感で見つけた実感──気温や草花の芽吹き──を寄り添わせ、私たちは日付と季節の巡りあわせを遊んでいる。

 近所を散歩しながら、木で季節を知る。一緒に木を見ることが、子どもと私の遊びでもある。
 私の自宅がある地域は、古いお屋敷と、同じ顔をした建売住宅、そして建築中のマンションが混在する、東京都市部の片隅によくある小さな町だ。北側の斜め向かいの家には、立派なびわの木がある。正面の家の、ひとり暮らしのおばあちゃんには広すぎる庭には、梅の木が何本も生えている。南の隣家には、柿の木。奥まった場所だから、カラスもここまでは食べにはやってこない。新築の戸建てには、たいていは小さな子どものいる家族が住んでいて、植えられたばかりの木の姿がある。なにが実るかは、だんだんに分かってくるだろう。
 義理の両親の家、つまり、夫が育った東京の家には、柚子の木がある。家の駐車場との間の、庭には足りない小さなスペースにそっと育った宝の山。初めて冬に訪れたとき、これからは無料で好きなだけ柚子がもらえるというスケベさでもってうきうきした。以来、毎年冬になると、空のバックパックを持って出かけ、ぎゅうぎゅうに膨らませて帰ってくる。
 売るほどもいでくるから、ポン酢を仕込んだり、お風呂に浮かべたり、ちょっと洒落めいたことをして柚釜にして茶碗蒸しを作ってみたりする。汁物の吸い口に皮を浮かべるのも、この季節だけのたのしみだ。朝に、夕に、鼻が飽きることはない。

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寿木けい

すずき・けい●富山県生まれ。早稲田大学卒業後、出版社で雑誌の編集者として働きつつ、執筆活動をはじめる。出版社退社後、暮らしや女性の生き方に関する連載を持つ。
2010年からTwitterで「きょうの140字ごはん」(@140words_recipe)を発信。フォロワーは現時点で12万人以上。現在、東京都内で夫と二人の子どもと暮らす。
著書にロングセラー『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』、エッセイ集『閨と厨』、版を重ねている文庫版『わたしのごちそう365 レシピとよぶほどのものでもない』(河出書房新社)があり、いずれも話題となっている。

寿木けい公式サイト
https://www.keisuzuki.info/

砺波周平

となみ・しゅうへい●写真家。1979年仙台生まれ北海道育ち。
北里大学獣医畜産学部卒業。大学在学中から、写真家の細川剛氏に師事。
2007年東京都八王子市に東京事務所を置く傍ら、八ヶ岳南麓(長野県諏訪郡富士見町)に古い家を見つけ自分たちで改装し、妻と三人の娘、犬、猫と移り住む。
写真を志して以来、一貫して日々の暮らしを撮り続ける。現在、作品が「暮しの手帖」の扉に使用されている。東京都と長野、山梨に拠点を持ち活動中。

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