よみタイ

寿木けい「土を編む日々」
春夏秋冬、旬の食材は、新鮮で栄養たっぷり。
季節の野菜は、売り場で目立つ場所に置かれ、手に入れやすい価格なのもうれしいところです。
Twitter「きょうの140字ごはん」、ロングセラー『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』で、日々の献立に悩む人びとを救い続ける寿木けいさん。
食をめぐるエッセイと、簡単で美味しくできる野菜料理のレシピを、「暮らしの手帖」などの写真が好評の砺波周平さんの撮影で紹介します。
自宅でのごはん作りを手軽に楽しむヒントがここに。

第16回 二日めのかぼちゃ

 夏目漱石の『坊っちゃん』には、主人公が赴任先の学校で出会った英語教師を「蒼くふくれたとう茄子なす」とくさす場面がある。
 茄子紺色の間延びした顔の男なんだろうと思っていたけれど、そうではなくかぼちゃのことだと私が知ったのは、ずっと大人になってからのことだ。
 主人公は顔が蒼くふくれたひとを見ると必ず「うらなり(蔓の先に時期が遅くなってから実ったもの)の唐茄子ばっかり食ったむくいだと思う」というのだから、かぼちゃもずいぶん不気味なたとえに持ち出されたものだ。しかし考えてみれば、かぼちゃのほうが適役かもしれない。ぽこんと小突いてみたくなるような、面の皮が厚くて鈍そうな小憎たらしさは、かぼちゃでなければ表現できない気がしてくる。

 唐茄子のほかにも、南京、南蛮、南瓜──かぼちゃには多くの呼び名がある。いずれも海の向こうの国々にゆかりがあり、しかも、もともとはカンボジアがつづまったのだというから、名前ひとつとっても不思議な野菜である。

 この夏、初めてかぼちゃを育てた。調理のたびにスプーンでくり抜いては捨ててしまう種を、ずっと後ろめたく思っていたのだ。遊び半分で子どもと一緒に植えてみたところ、どうしたことか見事なつるが伸びはじめ、ベランダが飲み込まれてしまうのではないかと思えるほどすさまじい速さで成長した。
 かぼちゃの蔓というのは奔放で、いち方向ではなく、北へ南へ、東へ西へ、あっちこっちへ伸びる。視線の避暑地になってくれるゴーヤとは違い、ちょっと怖いようなわずらわしさなのだ。
 しかし、立派だったのは蔓だけで、ひとつも実らなかった。最初からうまく運ぶわけはないと分かっていながらも、これはもしかしてしばらく食費が浮くぞと弾んでいた左うちわは、ぴしゃんと叩き落とされた。
 伸びた蔓の先に、私は田舎で当たり前のように見てきた光景を期待していたのだった。夏に収穫されたかぼちゃは、玄関や地下室など涼しいところに1〜2か月貯蔵され、秋が深まるころにようやく食卓にのぼりはじめる。煮物、味噌汁、天ぷら──その後の活躍ぶりはご存じの通りである。

 このかぼちゃ、見た目からはなかなか分からないのだけれど、かなり個体差がある。
 刃先を45度にして切り込み、体重をかけぐいっと一気に包丁をおろす。刃先をなかなか割れ進めさせてくれない、みっちり詰まったかぼちゃほど、味も濃くてねっとりしている。逆に、拍子抜けするほどトントンと切れてしまうものは、仕上がりもあっさりして水っぽい気がする。

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寿木けい

すずき・けい●富山県生まれ。早稲田大学卒業後、出版社で雑誌の編集者として働きつつ、執筆活動をはじめる。出版社退社後、暮らしや女性の生き方に関する連載を持つ。
2010年からTwitterで「きょうの140字ごはん」(@140words_recipe)を発信。フォロワーは現時点で11万人以上。現在、東京都内で夫と二人の子どもと暮らす。
著書にロングセラー『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』、エッセイ集『閨と厨』のほか、11月6日に、文庫版『わたしのごちそう365 レシピとよぶほどのものでもない』が、河出書房新社から発売された。

砺波周平

となみ・しゅうへい●写真家。1979年仙台生まれ北海道育ち。
北里大学獣医畜産学部卒業。大学在学中から、写真家の細川剛氏に師事。
2007年東京都八王子市に東京事務所を置く傍ら、八ヶ岳南麓(長野県諏訪郡富士見町)に古い家を見つけ自分たちで改装し、妻と三人の娘、犬、猫と移り住む。
写真を志して以来、一貫して日々の暮らしを撮り続ける。現在、作品が「暮しの手帖」の扉に使用されている。東京都と長野、山梨に拠点を持ち活動中。

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