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鈴木光司さんの『海の怪』の発売を記念して、著作『事故物件怪談  恐い間取り』(二見書房刊)を原作とした映画『事故物件 恐い間取り』が大ヒット上映中の松原タニシさんとのスペシャル対談を決行しました!
対談会場の入り口で会ったというふたりは、まだ席に着く前からフライングでおしゃべりを開始。ホラーがテーマとは思えないほど、終始、笑いの絶えない現場でした。
対談の席につくと、やがて、”貞子”の創作秘話から、話題は死をめぐるディープな方向へ……

(構成/藤原綾 撮影/冨永智子)

恐いのは、海か幽霊か—”事故物件”対談  松原タニシ氏×鈴木光司氏 <前編>

鈴木光司さん『海の怪』刊行記念

本当に恐いのは海か幽霊か

――おふたりは以前からお知り合いだったんですよね?

松原 昨年、日テレプラスの『松原タニシのホラー学~創造するコワイ世界』という番組で、ホラー作家の方と対談する機会があり、第一回目のゲスト作家が鈴木光司さんでした。

鈴木 俺、最初のゲストだったんだよね。横浜のお寺で撮影して。

松原 そうです。弘明寺ですね。雰囲気ありましたね。

鈴木 あのとき、『リング』執筆時のエピソードとして、間取りの話をしたよね。現浜松市長の鈴木康友は、小中高大とすべて同じ学校に通った、いわゆるまぶだち。大学時代、康友が近所の下宿に引っ越してきたというので梅雨時に訪ねてみると、そこは寺の離れの四畳半で、窓を開けると墓石の並びに井戸が見えた。怪談を語るにはうってつけのシチュエーションと閃き、即興で、井戸に投げ込まれて殺された女性の怨霊が、ちょうど一週間後に話を聞いた人間の元に現れるというストーリーを作り、康友に話して聞かせたのが「貞子」の原型になったという……。

松原 覚えてます。友達を呼んで、思いつきの怪談をしたって話。

鈴木 実は後日談があって。10年ばかり前に浜松で開催されたパーティの席で、俺と康友と、歴史家の磯田道史さんで飲んでいたとき、康友が「学生時代、寺の下宿に光司を呼んだら、怖い話をしやがったんだ。つまり、『リング』の発端を作ったのはおれだ!」と自慢を始めた。すると、磯田さんが、「寺の下宿ってどこですか?」と神妙な面持ちで訊いてきたので、詳しい地理を教えたところ、なんと彼も大学時代に同じ下宿に住んでいたことが判明したんだ。

松原 え! まったく同じ部屋ですか?

鈴木 そう。磯田さんは俺たちよりひと回り後輩だから時期は違うんだけど、『リング』を思いついた部屋で学生時代を過ごしている。

松原 あるんですよね、何かと何かが引きつけられることって。芸人先輩かみじょうたけしさんの周りではいろいろな奇跡がしょっちゅう起こるんですね。初めて会った人同士の兄弟が、実は繋がっていたとか。そういう縁を結ぶ人がたまに現れるんですけど、鈴木さんもそういう人だって話を聞いたことがあります。

鈴木 そうかもしれないけど、俺は霊感がまったくないから苦労してるんだよ。

松原 僕も霊感はないから、人の話を聞いて、その現場に実際に行ってみるんです。でも、行ってみたらそんな大したことじゃなかったってことも結構あって。だから、『海の怪』の与那国島の遺跡がもしかしたら自然でできているんじゃないかという話も、僕には納得できました。ロマンが崩れるかもしれないけど、行ってみないとわからないことって多いですよね。

鈴木 そうそう、実際に行けばわかるから。

松原 それに、『海の怪』を読んでいると、実際に鈴木さんの周りでもちょいちょい怪現象が起きてますよね。そこに「海」っていうエッセンスが入ってくるから、また怖さが増して。

鈴木 船にも事故物件があるからね。

松原 お友達が落水事故に遭った船で撮影するっていう話も、本の中に出てきましたよね。これを読んで、僕はやっぱり幽霊より海のほうが怖いって思いました。周囲を海に囲まれた閉鎖的な空間や、一瞬の気の緩みで死に向かってしまう救いようのない絶望感。しかも、助けることもできないっていう。

鈴木 ヨットで海に出る前には、死ぬ瞬間をイメージして、「どじを踏んだら死ぬんだからな」と自分を戒めることにしている。時化た夜の海で落水したら、まず助からない。不注意で海に落ち、自分ひとり海面を漂う中、ヨットだけが前に進んで船影が小さくなるのを眺めれば、生存の可能性ほぼゼロと悟って絶望は深まる。

松原 それを考えたらめっちゃ怖いんですよ。あ、船、俺を置いて行っちゃった……。でも、誰にも伝わらないってことですもんね。

鈴木 落水したとしても、すぐに死ぬわけではない。10分や20分ぐらいは浮いていられるだろうが、もがくうちに力尽き、暗黒の底へと沈んでいくことになる。溺れて、呼吸ができずに苦しむ時間なんてごくわずかだと思う。意識が遠のく「ブラックアウト」という瞬間は、苦痛ではなく、むしろ心地好さを伴うものなんだ。だから、死ぬこと自体は怖くはない。絶望の後、死ぬまでの20分ばかりの間に心を駆け巡る後悔の念と、残された者の悲しみを想像するのが、嫌でしょうがないんだ。だからといって、海に出るのはやーめたということにはならない。最悪の事態を想定し、そうならないよう万全を期し、でも、運が悪ければ死ぬんだよと覚悟して、海に出るのがポジティブな生き方だと思う。
 そんな俺でも、事故物件にはとても住めないよ。よく住めるね。頭、おかしいんじゃないの。

松原 いや、そっくりそのままお返しします。僕は海に出られません。よく出られますね(笑)。海はいつ死ぬかわからないじゃないですか。事故物件は死んでいる人がいただけの話ですから。海のほうが死んでる人がいっぱいいるし、自分が死ぬ確率も高いし。事故物件は守られてますから、海のほうがよっぽど怖いですよ。

鈴木光司氏
鈴木光司氏
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松原タニシ

まつばら・たにし●1982年兵庫県神戸市生まれ。お笑い芸人。主に「事故物件住みます芸人」として活躍中。事故物件に住むようになったのは、先輩芸人・ 北野誠の番組「北野誠のおまえら行くな。」のトークイベント出演時、知り合いの若手芸人が住んでいたアパートでの怖い話を披露したところ、北野からその部屋に住んでみるよう言われたことがきっかけだった。しかしこの物件は諸事情で借りられなかったため、殺人事件があった別の物件に2012年から住むことに。2018年6月、これまでに住んでいた所や物件検討時の内覧、特殊清掃のアルバイトなどで訪れた事故物件を間取り図付きで紹介する『事故物件怪談 恐い間取り』を上梓。本作は、中田秀夫監督、亀梨和也主演(2020年8月公開)で映画化され話題となった。
著書に『事故物件怪談 恐い間取り』『事故物件怪談 恐い間取り2』『異界探訪記 恐い旅』(二見書房)、『ゼロからはじめる事故物件生活』(原案・小学館)、『ボクんち事故物件』(原案・竹書房)などがある。
レギュラー番組に、CBCラジオ「北野誠のズバリ」(毎週火曜日13:00~16:00生放送)、ラジオ関西「松原タニシの生きる」(毎週月曜日19:30~20:00生放送)、Youtube、ニコニコ生放送「おちゅーんLIVE!」(毎週土曜日22:00~23:00生配信)、ニコニコ生放送「大島てる×松原タニシの事故物件ラボ」(毎月1回不定期生配信)など。

Twitter@tanishisuki

鈴木光司

すずき・こうじ●1957年静岡県浜松市生まれ。作家、エッセイスト。90年『楽園』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞してデビュー。91年の『リング』が大きな話題を呼び、その続編である95年の『らせん』では吉川英治文学新人賞を受賞。『リング』は日本で映像化された後、ハリウッドでもリメイクされ世界的な支持を集める。2013年『エッジ』でアメリカの文学賞であるシャーリイ・ジャクスン賞(2012年度長編小説部門)を受賞。リングシリーズの『ループ』『エッジ』のほか、『仄暗い水の底から』『鋼鉄の叫び』『樹海』『ブルーアウト』など著書多数。

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