よみタイ

寿木けい「土を編む日々」

第12回 冷たいスープを1ダース

 たとえば、アボカドで作ったこんなスープ。
 角が立ったアボカドもおいしいけれど、熟れて形をなくす寸前のところを食べるのも好きだ。
 半分に切って種を取り、中身をスプーンでくりぬいて、泡立て器で滑らかにする。“森のバター”の異名をもつアボカドなら、本物のバターみたいに泡立て器でほぐしてもいいんじゃないかと思いついたのだ。水を足して扱いやすいゆるさにのばしてみたら、悪くない。
 塩気にはしょっつるを、コクをだすために水ではなく生クリームを足す。酸味には、カクテル用に買ってあったライムを使う。同じ酸っぱさでもレモンより丸みがあり、アボカドの風味がより膨らむ。
 
 じつはこのレシピには下敷きがある。もともとは、さいの目に切ったアボカドにライムを搾って、しょっつるをほんの少しかけ、ギムレットやジントニックの肴にするのが好きだったのだ。弁当作りにも活かせるとは、酒飲みの知恵も捨てたもんじゃない。
 多めに作って冷蔵庫にしまい、夜、スープをアテに一杯飲む。これは、とびきりの副産物だ。
 
 一年中スーパーに並ぶアボカドだけれど、原産は中南米。だから日本でも、夏から秋に食べるのが理にかなっていると思う。分類としては果物。脂質の多さに怯むが、脂質こそが美味しさを支えている。

 短い夏休みの間に、いろんなスープを作った。喉ごしよくつるっと飲めるよう叩いたオクラを入れてみたり、トマトと玉ねぎを焼くように煮て、コンソメで味付けをしたものもあった。すべて冷たいスープ。その数、十二。朝の日課にやっと慣れてきたころ、夏休みは終わってしまった。

 太陽を恐れない子どもたちは、ひと夏で柴犬色になった。代謝がいいから、するんと脱皮するようにもとの色に戻るだろう。
 その頃には、温かいスープの季節が巡ってくる。夏の間じゅう忌み嫌った湯気に、部屋じゅうが包まれるだろう。

 心はもう、冬休みのお弁当デイズに向け足踏みしている。かぼちゃ、れんこん、きのこにさつまいも。売り場に並ぶ野菜がポタージュに見えるのは、気に入りの弁当箱を手にしたからだ。季節と競いあって旬を追いかける脚力が、生を前へ、前へと運んでいく。

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寿木けい

すずき・けい●富山県生まれ。早稲田大学卒業後、出版社で雑誌の編集者として働きつつ、執筆活動をはじめる。出版社退社後、暮らしや女性の生き方に関する連載を持つ。
2010年からTwitterで「きょうの140字ごはん」(@140words_recipe)を発信。フォロワーは現時点で11万人以上。現在、東京都内で夫と二人の子どもと暮らす。
著書にロングセラー『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』、エッセイ集『閨と厨』、文庫版『わたしのごちそう365 レシピとよぶほどのものでもない』(河出書房新社)があり、いずれも話題となっている。

寿木けい公式サイト
https://www.keisuzuki.info/

砺波周平

となみ・しゅうへい●写真家。1979年仙台生まれ北海道育ち。
北里大学獣医畜産学部卒業。大学在学中から、写真家の細川剛氏に師事。
2007年東京都八王子市に東京事務所を置く傍ら、八ヶ岳南麓(長野県諏訪郡富士見町)に古い家を見つけ自分たちで改装し、妻と三人の娘、犬、猫と移り住む。
写真を志して以来、一貫して日々の暮らしを撮り続ける。現在、作品が「暮しの手帖」の扉に使用されている。東京都と長野、山梨に拠点を持ち活動中。

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