よみタイ

寿木けい「土を編む日々」
春夏秋冬、旬の食材は、新鮮で栄養たっぷり。
季節の野菜は、売り場で目立つ場所に置かれ、手に入れやすい価格なのもうれしいところです。
Twitter「きょうの140字ごはん」、ロングセラー『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』で、日々の献立に悩む人びとを救い続ける寿木けいさん。
食をめぐるエッセイと、簡単で美味しくできる野菜料理のレシピを、「暮らしの手帖」などの写真が好評の砺波周平さんの撮影で紹介します。
自宅でのごはん作りを手軽に楽しむヒントがここに。

第13回 左党のおやつ

 銀杏やむかごなどの小さな実り。涼しい風に吹かれた干物。秋の酒席はこれにひやおろしがあれば、ほかにはいらない。
 女の子は芋栗が好きだろうからと、有名なお店のスイートポテトやモンブランを差し入れてくれるひとがいる。私は見るだけでお腹がいっぱいになってしまって、あとでこっそり職場のひとにあげてしまう。
 若いころは今よりも左党ぶっていて、会社で大きな甘味にパクつくなんて──という頑ななところもあった。

 遡れば、いも掘りや焼きいもなんて学校行事も大して好きではなかった。
 通っていた富山の小学校では、専用の畑でさつまいもを育て、体育の数コマを費やして収穫するのが恒例で、数日前から児童たちが落ち葉や枝を体育館の裏に集めておく。体育が苦手だった私にとっては、競わなくていいぶんいくらかましという程度のことだった。

 しかしそんな私でも、さつまいもを火に放り込んだあとに楽しみがあった。
 辛抱できずホイルを剥がしてしまうと、まだ食べられたもんじゃない。お手つきを叱られた子どもたちは、焚き火にいもを戻す。しかし芯に向かって進んでいた緊張の火は、ホイルを解かれたが最後、ぷつりと切れてしまって簡単には元に戻らない。
 待ちくたびれ、日も暮れようかというころ、隅っこに転がったさつまいもを救い出してみれば、少し焦げた皮がぱっくりと裂け、天に向かって湯気を刺す。だいだい色に蒸されたいもが顔を出すと、火へのワンダーで胸がいっぱいになった。

 うんと大人になってからは、きっかけは覚えていないけれど、多摩川・六郷土手のどんど焼きを見にいくようになった。毎年一月の第二日曜に、人びとがお正月の松飾りやしめ飾りを持ち寄って火にくべ、その火でさつまいもを焼く。
 なんせ一年でいちばん寒い季節だ。奥歯をカタカタ鳴らしながら待ち、そうして焼けたいもを、知らないひとと肩寄せあって食べる奇妙な時間。すべて燃えてしまったあとの、土手の静けさ。
 待つということは、おいしさの大切な構成要素である。ちゃんと待てたひと──それはぶんをわきまえられるとも言い換えられる──だけが手にできる蜜というものは確かにあると、まわりを見ていて思う。焼くというのは、案外難しい調理法なのだ。待つことが難しいように。

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寿木けい

すずき・けい●富山県生まれ。早稲田大学卒業後、出版社で雑誌の編集者として働きつつ、執筆活動をはじめる。出版社退社後、暮らしや女性の生き方に関する連載を持つ。
2010年からTwitterで「きょうの140字ごはん」(@140words_recipe)を発信。フォロワーは現在11万人以上。著書に『わたしのごちそう365 レシピとよぶほどのものでもない』、ロングセラー『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』、エッセイ集『閨と厨』がある。
現在、東京都内で夫と二人の子どもと暮らす。

砺波周平

となみ・しゅうへい●写真家。1979年仙台生まれ北海道育ち。
北里大学獣医畜産学部卒業。大学在学中から、写真家の細川剛氏に師事。
2007年東京都八王子市に東京事務所を置く傍ら、八ヶ岳南麓(長野県諏訪郡富士見町)に古い家を見つけ自分たちで改装し、妻と三人の娘、犬、猫と移り住む。
写真を志して以来、一貫して日々の暮らしを撮り続ける。現在、作品が「暮しの手帖」の扉に使用されている。東京都と長野、山梨に拠点を持ち活動中。

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