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「ブス、デブ」は小学生男子が誰にでも言う悪口だと思っていた 第4話 めくられない私

 小学生にもなると、活発で意地悪なタイプの男子とは、もっと明確に男子vs女子で対立することも多かった。特に私は運動が苦手で、長縄でつまずいては非難され、運動会のリレーでは足を引っ張り、長距離走ではビリになり悪目立ちするタイプなので、体育の時間なんかは走り方をわざと誇張してマネされ、恥ずかしくて泣こうものなら弱虫認定され泣き方も含めマネされ、男子爆笑のネタとして消費されることもしばしばあった。
 当然、泣くと余計にバカにされるので「怒る」という戦い方にスライドする他なく、クラスの半分くらいの女子たちは「バカ男子」に対抗するため、怒りや腕力での反撃を頑張っていたし、私もその一人であった。それに、小学校3年生にもなれば、泣いちゃうクラスメイトというものは、さっきまでのハイテンションな空気に水をさす困った存在でもあり、「みんな」のイジるイジられるという輪からも外される。または、本格的に嫌われいじめられる可能性もあるので、マジ泣きは厳禁である。泣くのは最後の手段か、「策士としての嘘泣き」をして先生や意地悪男子を出し抜き、みんなから一目置かれる高度な裏技としてしか使えなかった。

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 そういうわけで、クラスという雛壇のレギュラーメンバーとして長く活躍するためには、泣かずに怒る強い女子でなければならず、男子にとってイジリの面白さは底なしらしく、まるで腕相撲のように力の加え合いは加速し、泣かない女子への攻撃はエスカレートし、ブスとかデブとか分かりやすい中傷が飛び交うまでに時間はかからなかった。
 反面、その言葉がただの攻撃の手段であり、実際に容姿を冷静に分析し批評したものでないことも、なんとなく感じていた。例えば、明らかに小柄で儚げな雰囲気のある女の子ですら「ブッチャー」というあだ名をつけられ、ブッチャーがなんなのかは知らなくとも、その音の響きが一般的に「女の子=可愛らしいもの」という刷り込みからはほど遠く、ブスやデブを連想させる響きであることも直感的に理解できるので、即座に「やめてよ!」などと怒り、こぜりあいが始まるということはよくあった。今なら、小学生ですでに「女子には容姿攻撃」が最大かつ容易な手段として機能していることが、大人が子供たちに見せている世界でルッキズムが蔓延はびこっていることの証左であり反省と憂いの気持ちになるところだが、当時は、華奢でお人形みたいな女の子でもブスやデブと言われるのだから、私も本当に容姿が醜悪なわけではないのだという安心感もあった。

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冬野梅子

漫画家。2019年『マッチングアプリで会った人だろ!』で 「清野とおるエッセイ漫画大賞」期待賞を受賞。その後『普通の人でいいのに!』(モーニング月例賞2020年5月期奨励賞受賞作)が公開されるやいなや、あまりにもリアルな自意識描写がTwitterを中心に話題となり、一大論争を巻き起こした。2022年7月に、派遣社員・菊池あみ子の生き地獄を描いた『まじめな会社員』(講談社)全4巻が完結。
最新刊は『スルーロマンス』(講談社)全5巻。

Twitter @umek3o

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